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四〇九号室の患者

綾辻行人(森田塾出版)

 自動車事故で大けがをした「わたし」は、記憶を失って精神科病棟に入院を余儀なくされていた。
 やがて少しずつ記憶が戻りはじめるが、それはおぞましい殺人の記憶だった……。
 作者は21歳のときに、この作品の草稿をしたためたそうだ。なるほど、文章が少々青臭い。ラストのどんでんがえしも、私でさえ予想がついた。
 きっとこの作品は、綾辻氏のファンだったら楽しめるのではないだろうか。例えて言うなら、今ではすっかり成功した画家の、若かりし頃のラフスケッチを見せてもらったような、そんな感覚だろうか。
60点

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僕の双子の妹たち

白石公子(集英社)

 郵便局に勤める直毅。彼には、実のりと穂のかという双子の妹がいた。不倫の恋に苦しむ実のり。専門学校を辞めて、小劇団に入りたいという穂のか。
 事故死した両親に代わって、妹たちを守りたいと思う直毅だが、自らの恋愛問題に思い悩む日々であった……。

 途中までは、とても面白く読むことができた。が、直毅が茜と葉子という二人の女性に、同時に好意を持つあたりから、俄然いやなムードが漂いはじめた。ん? もしかして? こいつ女々しいだけのやつ?
 それはやがて確信に変わった。こっちがダメならあっちの女。寂しさや苦しさから逃れるためだけに、女性を利用するとは、見下げ果てたヤツだ。
 だいたい、妹たちに対する感情が、兄弟愛を超えてやしまいか。そう考えると、タイトルさえ不気味に思えてくる。
60点

葡萄物語

林真理子(集英社)

 34歳の映子は、結婚して六年になるが、子供に恵まれない。夫は優しい人ではあるが、平凡な生活に、ふと不安がよぎることがある。
 「このまま、片田舎で年を取ってゆくだけなのだろうか」と。
 そんなある日、彼女は東京の出版社に勤める渡辺という男性と出会う。やがて二人は惹かれあい……。

 既婚の同年代の女性なら、誰しも映子のような思いに囚われることはあると思う。もう異性からは相手にされない、そんな焦り、悲しみ。
 そして不倫をする女性の誰しも、自分のケースだけは不倫などという猥雑な言葉でくくって欲しくないと考えるような気がする。
 映子は、いわば女性たちの、そんな想いを代弁してくれているのかもしれない。ただ、終盤はありがちな展開で、工夫が足りないと思った。
65点

コスメティック

林真理子(小学館)

 30代になったばかりの沙美は、広告代理店から化粧品会社のPR担当に転身する。そこで彼女は自らの才能を開花させ、次々に困難を乗り越えてゆく。

 主人公が仕事にのめり込んで、無難な彼との結婚さえ蹴ってしまうところなどが痛快であった。
 だが、化粧品業界のどす黒い内幕や、身勝手な男たちの言い草や、読んでいてあまり愉快でない部分が多かった。
 主人公の沙美も、高慢ちきで計算高く、知り合いにはなりたくないタイプである。
50点

そうか、もう君はいないのか

城山三郎(新潮社)

 妻を喪った夫・城山氏が、彼女との出会いから別れまでを綴った手記。
 城山氏といえば、お堅い経済小説のイメージがあるが、この本を読んでそれががらりと変わった。奥様のことが心底好きでいとおしく思う、優しい男性だったのだ。

 まず出会いのシーンが圧巻。とある図書館の前で、偶然出会う二人。「間違って、天から妖精が落ちて来た感じ」。一度でいいから、男性にこんなふうに思われてみたいものである。
 結婚後も、茶目っ気のある奥様に幾度と無く救われる城山氏。女は愛嬌とはよく言ったものだ。
 そして悲しい別れ。彼の憔悴しきった姿は、「父が遺してくれたもの」という、巻末の次女の手記で明らかになるのだが、それがまた涙を誘う。
 夫にここまで愛される妻、羨ましくもあり、自分とギャップがありすぎて不思議な感じも、正直した。
85点

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