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重力ピエロ

伊坂幸太郎(角川書店)

 泉水と春は兄弟で、弟の春は母親が強姦されたときに身ごもった子であった。二人が大人になったとき、ある事件が起きる。壁などにスプレーで落書きする、悪質ないたずら。それに引き続いて起きる連続放火。兄の泉水は事件の謎を解こうとするが……。

 登場人物がみんな変わっていて、それがとても心地良い。
 春は突拍子がなくて、その実すべて計算していて巧妙で。ガンで入院中の父は、子供みたいに無邪気かと思えば、圧倒的な存在感で兄弟を戒めたりもする。
 ひとり、泉水だけが常識的な雰囲気を持っているが、彼もまた前述の二人にかかると、軽々と常識を飛び越えた行動に出たりする。
 変わっていることを理解し、信頼しあう三人のゆるぎない関係が、ひどく羨ましかった。

 途中、こんな挿話がある。とある寺の看板に「まさか、楽するために生まれてきたんじゃあるまいな」と書かれていた、と。
 いくつもの悲しみを乗り越えてきた春は、この一文を心から肯定する。彼の悲痛な想いが爆発する終盤で、私はこの部分を思い出し、今後彼の人生が少しは楽になることを祈った。
95点
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戦艦陸奥<戦争篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第五巻。戦争をテーマにした、十一の作品が収められている。
 一番の長編「太陽黒点」を紹介しよう。
 アルバイトをしながら大学に通う明。同じアパートに住む容子とは恋人同士だった。彼らは慎ましく、穏やかな関係を育んでいた。だが大企業の社長令嬢である恵美子という女性が現れ、ふたりは次第に彼女に翻弄されてゆく。
 いくら努力しても、生まれながらにして別世界に住む恵美子に敵わないという明の絶望に、深く考えさせられた。そういうふうに不平等なのは世の常である。安易に恵美子に取り入ろうとする彼に、容子ともども私も悲しくなってしまった。
 そして、事件の鍵を握る人物による、ラストの独白。殺人の動機を知るに及んで、その無意味さ、理不尽さには息をのんだ。
75点

夜よりほかに聴くものもなし<サスペンス篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第三巻。十三の作品が収められている。
 タイトルにもなっている「夜よりほかに聴くものもなし」を紹介しよう。八坂という一人の老刑事が事件の謎を解く、連作短編集。
 彼は、物語の最後に必ず「それでも……おれは君に、手錠をかけなければならん」と言う。唾棄すべき人間が犯人だった場合はもちろんのこと、犯人がどんなに同情に値しようとも、老刑事は職務を全うしようとする。
 彼が事件の全容を掴んで、身を震わせるようにしてこのセリフをつぶやくので、読んでるほうも充分に感情移入できる。
 他に「鬼さんこちら」という短編も、まるでミステリーのお手本たる、切れ味鋭い作品である。
90点

ゴールデンスランバー

伊坂幸太郎(新潮社)

 首相が凱旋パレード中に暗殺される。警察が犯人として発表したのは青柳という男。だが彼は真犯人ではなかった。警察の常軌を逸した追跡を、彼はかわすことができるのか?

 伊坂氏が得意とする場面が次々と変わっていく手法が、ストーリーに絶妙な疾走感を与えている。伏線は折り重なるように張られ、それらが繋がるときの快感といったらもう。
 主人公・青柳の性格がまたいい。素直で普通で、思わず「がんばれ!」と励ましたくなるような人柄なのだ。
 終盤の展開は主人公にとってけっこう過酷なものであったが、彼が「その事実」を面白がっているような描写があって、前向きな彼に救われる気がした。
95点

怪談部屋<怪奇篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第十巻。
 二十七の作品が収められているその中で、どうしたってこれを紹介しなければなるまい。
 「うんこ殺人」。
 事故死して、地獄へと来てしまった鏡氏。
 彼の首は胴体の上にはなく、片手に自分の首をぶら下げているというからグロである。
 そして共に地獄に堕ちた妻と、地獄の裁判所で罵りあう。
 その妻はと言えば、首が百八十度回転して、顔の下が背中になっている。加えて内臓が飛び出している娘。
 三人がなぜかうんこまみれなのである。その訳は……。
 何てばかばかしいのだろう。嬉しくなってしまう。痛快無比である。
 その他、近未来を描いたSF色の濃い作品もまた楽しめた。
85点

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