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よしなしごとども 書きつくるなり
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志水辰夫(新潮社)

 元教師の波多野は、失踪した教え子を探しに上京する。教え子には男性の影があったようだが、その男性というのは波多野が以前勤めていた学園の関係者らしい。学園で今、きなくさい何かが起きていることを彼は知るのだった……。

 1991年度の「このミス」一位ということで期待して読んだが、これは感想を書くのが難しい。恋愛やら暴力やらいろいろな要素があって飽きずに読むことはできた。だが、いかんせん主人公がキザ過ぎる。もし自分の知り合いだったら引くこと間違いなしの言動が多々あった。
 文庫の解説者は「志水節を味わうだけで幸せな気分になる」と書いているが、私は逆に志水節にはちょっと鼻白んだ。
55点
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清水義範(講談社)

 普通の大人が、普通の文章を書くためのコツを指南しているのが本書である。
 この手の本を初めて読んだが、けっこう面白く読むことができた。なるほど、と感心させられる部分がたくさんあった。
 たとえば。
 ・公人として不特定の人に対して語りかけるなら「だ・である」体を使ったほうが良い。
 ・謝罪文は長々と弁明を書いても良い。そのうえで心をこめてお詫びするが良い。
 などなど。
 そして一番印象的だったのは「女性の随筆は、自分の感性自慢」という一文。筆者は続けて「いやがられないようにうまく言ってしまうのが随筆の醍醐味」とも書いている。
 ネットでもその類いのエッセイをよく見かける。嫌味にならないように気を付けたいものである……と自戒を込めて書いておこう。
70点
清水義範(講談社)

 短編集。出産、就職、家や墓の購入など、人生の転機が題材になっている。
 姑の介護をするはめになった嫁の心情を描いた「ほとけさま」。
 就職試験の面接での悲喜劇を描いた「御社に惚れました」。
 などなど、軽くて重いテーマの短編集である。
 主人公たちはみんな真面目に、懸命に生きているのに、あまり報われない人が多い。そうやって「人生うろうろ」しながらも、まぁ絶望もせずに生きていければ良いじゃないか……そんなため息まじりの人生観がうまく表されていると思った。
60点
朱川湊人(新潮社)

 アカシア商店街にまつわる七つの連作短編集。
 優秀な兄と身体が弱い弟。その弟の死を予告するような貼り紙が見つかる。学帽を被った、おかしな少年の仕業らしい。弟は家の近所でその少年に出会うが……『夏の落し文』。
 妖怪のような学帽の少年、喘息発作、天狗の落し文の言い伝え、と背筋がヒヤリとするような描写がいろいろ出てくる。自分が子どもの頃に感じた、得体の知れないものへの恐怖がまざまざと蘇ってきて、息苦しいほどだった。
 他の短編もどこか懐かしく良い味を出しているのだが、いかんせん既読感を感じさせるものが多かった。
75点
首藤瓜於(講談社)

 生まれつき感情を持たない男「鈴木一郎」が主人公。彼はコンピュータのようにただ物事を寸分違わず記憶するが"関連付け"ができない。原因と結果が結びつかない。そんな彼がある事件から連続爆破犯人に命を狙われるようになり、やがて彼が入院していた病院を舞台に爆破犯人との対決が始まる……。

 主人公以外の登場人物は皆聞いたこともないような名前で、特殊な特別な彼だけが鈴木一郎(もっとも本名は違うが)。そのココロは?「普通の人間になりたいという彼の内なる欲求の表現」かしら。
 ラストの夢の話がじんわりと良かった。蛇足の反対(って何て言うの?)。
95点
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