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よしなしごとども 書きつくるなり
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芥川龍之介(文藝春秋)

 十八の短編だが、いずれ劣らぬ名作ぞろいである。ユーモラスな「鼻」。芸術家の業を描いた「地獄変」。ミステリーのような「藪の中」。
 そんななかでも遺作となった「歯車」は秀逸である。有名な作品なのであらすじは省くが、あの世とこの世のきわを、行きつ戻りつしているような危さに満ち満ちている。何を見ても「死」に結び付けようとする、主人公の異様に研ぎ澄まされた神経に、読んでいるあいだ中緊張を強いられた。
 怖い話、おどろおどろしい話はたくさんあれど、この作品ほど負のエネルギーに吸い込まれそうになる作品は、そうはないだろう。
90点
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ナンシー関(角川書店)

 公式ホームページ「ボン研究所」に書かれていたコラム集。
 三年も前の話から始まってるので、ちょっと懐かしい感じもするのだが、その頃から山田○子はズレていたんだとか、華原○美は痛かったんだとか、今読んでも色あせない(?)話は多い。
 ひとつ、私もまったく同じことを考えていた、という話が載っていた。良い声の男性についての考察。その声で「愛してるよ」も言うし「トイレに紙ないよ」も言うという事実に、それでいいのか? という疑問がどうしても湧いてくるのである。良いも悪いもない話なのだが。

 ※2003年9月現在、ホームページは公開されていて、この本のコラムはそちらで読むことができる。
75点
そね(有限会社鉤屋)

 そね氏のエッセイ第二弾。
 今回は「食」に関する話である。巷に溢れる、単なる「おいしい店の紹介本」や「レシピ本」とは一線を画す、ユニークな一冊である。
 特に激しく同意、と思ったのは「レタス」の話。ランチメニューに付いてくる、あのレタスをちぎっただけのサラダ。あれは私も許せない。心から「要らない」と言いたい。
 ただ、今回は手放しでこの本をお薦めすることは、個人的に思うことがあってできない。それでも、と仰るかたはそね氏のサイト「鉤屋」をご覧下さい。
採点なし

※追記 2012年現在、上記サイトは閉鎖されております。
西川美和(ポプラ社)

 家業を継いで実家に残った兄・稔。地元を離れて東京でカメラマンになった弟・猛。法事で久しぶりに故郷に帰った猛は、幼なじみである智恵子と再会する。そして三人でドライブに出掛けたとき、事件は起きた……。

 各章ごとに語り手が変わるのだが、その色の変え方がとてもうまい。ワルぶって尖がっているが、ことが起きると保身にはしる猛。優しくて温厚だが、実は得体の知れない何かを隠している稔。二人のひと言ひと言が、その内面を見事にあぶりだす。
 脇役たちの章も、それぞれに良かった。息がつまりそうな田舎で不満を抱えつつも、穏やかに、身の丈にあった生活を送る人々。だが彼らの「日常」も案外もろい。その危うさを、筆者は冷徹な目で描き出している。
85点
西澤保彦(講談社)

 富豪の源衛門は、孫娘りんの動静を探るため一人の男を彼女の元へ送り込む。その男、山吹みはるは不思議な能力を持つ男だった。彼と会話を交わしたものは、本人も忘れていた事柄を思い出し、さらに深い考察をすることになり、思いも寄らぬ事実を発見するのだった。

 変わった設定で面食らったが、みはるの性格の良さゆえか、読む気が失せるということはなかった。
 みはるは何もしてないのに、事件の真相が次々に明らかになってゆく過程は爽快感があったが、同時に登場人物が多すぎてくどい感じも受けた。
80点
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