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グラスホッパー

伊坂幸太郎(角川書店)

 怪しげな会社に所属する「鈴木」は、ゆきがかり上、押し屋を追うはめになる。路上で人を押して車に轢かせる押し屋。そう目されたのは「槿(あさがお)」という謎の男。
 平行して進むのは、人を自殺させるのが仕事の「鯨」と殺し屋「蝉」の話。

 鯨と蝉の描写に惹きつけられた。対峙する相手の生気を奪う、まるで死神のような鯨。悪の化身のような蝉。二人の差しの勝負には息を呑む迫力があった。
 対する鈴木の凡庸さは、ストーリーの小休止、ノーマルな人間のサンプル、といったところだろうか。彼については妻との思い出話が少々うっとうしかった。
 男性の登場人物と比べると、女性たちは類型的に過ぎるような気がした。特に槿の妻・すみれは男性小説家の描く(夢見る?)可愛い妻そのものだった。
85点
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戦中派不戦日記

山田風太郎(講談社)

 終戦の年、昭和20年。その一年間に筆者が認めた日記。
 とにかく長くて参ったが、筆者は削除も訂正もせずに、敢えて全文収録という形を取ったらしい。取捨そのものが一種の虚偽となるおそれがあるからだそうだ。
 なるほど、何日も続く空襲も大火も、当時生きた人はそれが真実だったのだから、読むほうが「飽いた」などと言うのは不遜というものであろう。

 全編を通して感じたことは、日本人は(あるいは人間は)しぶとい、ということである。
 今日死ぬか明日死ぬかの極限状態にありながら「何でも、運ですなあ」と言い合って、さびしく微笑する男たち。
 筆者である山田青年もまた、絶え間なく読書し、思索し、時には芝居を観たりもする。
 米国の余裕とは比ぶべくもないのであろうが、どことなくのんびりとした空気が漂うあたりが、開き直った強さを感じさせ、現在の日本の繁栄を予感させもするのである。
60点

死神の精度

伊坂幸太郎(角川書店)

 死ぬ予定の人間を七日間調査して「可」「見送り」のいずれかの判定を下す死神、千葉。彼が調査した六人についての連作短編集。

 『旅路を死神』が良かった。
 殺人犯である森岡は、千葉の車に乗り込んできて、北へ向かうことを指示する。森岡が告げた行き先は十和田湖。道中、千葉は森岡の胸中を探るが……。
 どこまでも淡々としている千葉、幼稚で浅はかな森岡、そのやり取りが絶妙である。
 次第に明らかになる森岡の過去も、ミステリーの味付けがなされていて、かなり引き込まれた。
 一歩間違えばキワモノになってしまいそうな「死神」というモチーフを、筆者はやすやすとこんなに心躍る、しゃれた小説に仕立て上げてしまった。その手腕に感服した。
95点

男性週期律<セックス&ナンセンス編>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第7巻。ちょっとエロティックな十七の作品が収められている。
 「美女貸し屋」を紹介しよう。
 探偵作家である「私」は、高利貸から借金をしていた。その返済がままならず、ついに「私」は彼の奇妙な申し出を受けることにする。それというのは、高利貸の情婦の面倒を見る、というものだった。
 尻すぼみになってる作品が多いこの本の中にあって、この短編はユーモアあり、ミステリーの味付けありで面白かった。
 特に子供を誘拐して身代金を取る方法は、他では聞いたことがない、斬新な方法だった。
60点

重力ピエロ

伊坂幸太郎(角川書店)

 泉水と春は兄弟で、弟の春は母親が強姦されたときに身ごもった子であった。二人が大人になったとき、ある事件が起きる。壁などにスプレーで落書きする、悪質ないたずら。それに引き続いて起きる連続放火。兄の泉水は事件の謎を解こうとするが……。

 登場人物がみんな変わっていて、それがとても心地良い。
 春は突拍子がなくて、その実すべて計算していて巧妙で。ガンで入院中の父は、子供みたいに無邪気かと思えば、圧倒的な存在感で兄弟を戒めたりもする。
 ひとり、泉水だけが常識的な雰囲気を持っているが、彼もまた前述の二人にかかると、軽々と常識を飛び越えた行動に出たりする。
 変わっていることを理解し、信頼しあう三人のゆるぎない関係が、ひどく羨ましかった。

 途中、こんな挿話がある。とある寺の看板に「まさか、楽するために生まれてきたんじゃあるまいな」と書かれていた、と。
 いくつもの悲しみを乗り越えてきた春は、この一文を心から肯定する。彼の悲痛な想いが爆発する終盤で、私はこの部分を思い出し、今後彼の人生が少しは楽になることを祈った。
95点

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