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動機

横山秀夫(文藝春秋社)

 短編集。
 表題作の「動機」より「逆転の夏」が良かった。
 殺人罪の刑期を終えて社会復帰した山本は、見知らぬ男から殺人を依頼される。初めは聞き流していたが、相手の男が勝手に銀行口座に金を振り込んできて、彼は次第に迷いだす。成功報酬は五千万円。彼は求めに応じるのか。

 前科のある人間の不安や焦燥、憤りがとても分かりやすく描かれている。終盤のどんでん返しも効いているし、救いのあるラストも良い。
80点
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塩狩峠

三浦綾子(新潮社)

 主人公の男が乗っていた汽車がブレーキの故障で制御不能に陥る。彼は自らの身体で汽車を止めようと決意する。

 実話に基づく小説らしい。その事実に、さらに感動を深めた。
 主人公はクリスチャンなのだが、半端ではない信仰心を持っている。いつも質素に暮らし、本物の博愛主義者。世にはびこるエセ宗教家も、この小説を読んで、顔を洗って出なおして来いと言いたくなる。
 私はばりばりの無宗教だが、これ読むとキリスト教だけは信じてもいいような気がしてくる。主人公の生き方は尊敬に値する。
80点

半落ち

横山秀夫(講談社)

 人望のある現職の警部が、アルツハイマーに侵された妻を扼殺した。彼は自首したが、犯行から二日間の行動をひた隠しに隠す。全てを語ろうとしない「半落ち」状態に、周囲は首をかしげる。彼の秘密とは。
 これは素晴らしい。まず、余計な風景描写がないところが気に入った。

 事件を取りまく六人の男たちがストーリーを繋いでゆくのだが、構成には無理がなく、しかもラストに向かって一筋の流れを作っていて、その巧みさに息をのんだ。
 「空白の二日間」の謎解きは、予想が付く答えではあったが、それでも涙なしには読み進むことができなかった。
 殺した、殺されたの血なまぐさいミステリーに飽き飽きしてるかたにおすすめしたい、極上の一品である。
95点

イン・ザ・プール

奥田英朗(文藝春秋社)

 五つの作品が収められている。表題作の「イン・ザ・プール」が面白かった。
 ストレスから体調を崩した和雄は、とある精神科医に掛かる。
 医師の名は伊良部。診察は適当で、注射フェチで、お調子者の彼に和雄は不信感を持つ。
 そんな折、ストレス解消のために和雄は水泳を始める。伊良部も泳ぐことに興味を持ち、ついには二人で水泳にハマってしまうが……。

 伊良部がいい。こんな精神科医がいたら、私もかかってみたい。悩みなんか霧散しそうだ。
 彼はカウンセリングなんか無駄だと言い切る。「生い立ちも性格も治らないんだから、聞いてもしょうがないじゃん」と。豪快かつシンプル。
 伊良部氏の活躍(?)がもっと読みたくなった。
70点

舟を編む

三浦しをん(光文社)

 大手出版会社である玄武書房で、新しい辞書を編纂することになる。もうすぐ定年の荒木、元営業マンの馬締、軽薄な西岡……それぞれの思いをのせて、辞書は形になってゆく……。

 本屋大賞受賞、堂々のベストセラーということで、かなり期待して読んだ。確かに面白い。おそらくほとんどの人が知らない「辞書づくり」の世界が興味深いし、馬締氏の恋のゆくえも気にかかる。
 がしかし。何か、そぐわない感じがずっとして、読んでいて落ち着かなかった。それは著者の作風が軽いせいかもしれない。辞書という重々しい世界を、わざと軽やかに描いたのかもしれないが、違和感だけが残った。
 同じ題材で、たとえば小川洋子氏あたりが書いたらどんなふうになるだろう。正直、そっちのほうが読んでみたい。
70点

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