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よしなしごとども 書きつくるなり
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川端康成(新潮社)

 主人公の信吾は、老妻と息子、その嫁とで暮らしていた。そこへ娘が嫁ぎ先から子供連れで出戻ってきて、落ち着かない日々を送ることになる。
 しかも息子は外に愛人がいるようで、信吾は可憐な嫁が不憫でならない。

 やはり、たまにはこういう名作を読むべきだとつくづく思った。一字一句、疎かにしたくない気持ちにさせられた。
 信吾の見た「夢」の話がしばしば登場し、普通なら辟易するところだが、そういう部分さえ精読してしまったくらいである。
 昭和二十年代、人々は今よりずっと不便な時代を生きていたはずであるが、風雅な感情を忘れず、美しい日本語でそれを表現していたのである。
90点
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神林長平(早川書房)

 中・短編が六作品収められている。
 これぞSF、というにおいの強い作品ばかりである。近未来のような設定、仮想と現実が入り混じる世界。純然たるSFモノを久々に読んで、懐かしさを感じた。

 六編の中では比較的分かりやすかった「意識は蒸発する」を紹介しよう。
 コンピュータの仮想空間へダイビングする実験をしている「わたし」。気が付くと、入国管理事務局の前に佇んでいた。空気もあり建物もあるが、そこは完璧に無人の世界であった……。
 ラストの「わたし」の気付きが、この作品の結論であろうか。現実世界においては「わたし」の意識はやがて消えてなくなる。どこかしらに保存されることは、ない。その確信を得た彼は、世界を、人生を達観したかのようである。
60点
有栖川有栖(東京創元社)

 信州の神倉という街は、新興宗教「人類協会」の聖地であった。英都大学の推理小説研究会部長である江神は、その街へ行ったらしい。なかなか戻らない彼を心配して、研究会の仲間四人が神倉へ乗り込むが、そこで思わぬ殺人事件に遭遇し……。

 本を手にした瞬間その厚さと重さに驚き、果たしてこんな長編を飽きずに読み通せるのかと思ったが、まったくの杞憂であった。
 何やら秘密を抱えているらしい宗教団体。「城」に幽閉されてしまった研究会のメンバーの目前で、次々に巻き起こる事件。テンポ良く進むストーリーに釘付けとなった。
 犯人は、キャラクター的に少し弱い気もしたが、動機は意外性があって良かった。読了後、彼が自らの生い立ちを語るシーンを探しに探してしまった。

 この作品に掲載されている「城」の図面は、私淑する建築家の安井俊夫氏によるものです。「城」を具体的にイメージできて助かりました。
85点
菊池寛(文藝春秋社)

 男爵の娘、瑠璃子は、些細な事件によって成金の荘田に恨みを買う。
 荘田は金に物を言わせて瑠璃子と結婚するが、まもなく他界する。未亡人となった彼女は、美貌と知性で言い寄る男たちを翻弄する。

 ひと言で言うなら、通俗小説である。展開は目まぐるしく、過剰な表現が多い。
 だが、この面白さはどうだろう。理屈をこねる前に、力技でねじ伏せられたような感がある。
 私の中にあった今までの「菊池寛」像を、良い意味で打ち破る作品であった。
75点
有栖川有栖・安井俊夫(メディアファクトリー)

 ミステリ作家の有栖川有栖氏と、一級建築士の安井俊夫氏が、密室について熱く語り合った一冊。

 密室は何ぞや? どのようにそれは分類できるのか? 建築的な見地からひもとく密室とは? 等々、密室についての疑問を次々に解き明かしてゆく会話は痛快無比。まさに痒いところに手が届きまくった作品といえよう。
 時にお二人の会話は脱線してゆくのだが、それがまた面白い。余談や薀蓄が、本文と同じくらい興味深かった。
 巻末にはお二人オススメの密室モノが三冊ずつ挙げられている。食指を動かされる作品ぞろいで、どれも読んだことが無い私はわくわくしてしまった。
採点なし
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