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トリツカレ男

いしいしんじ(ビリケン出版)

 いろんなものに取り付かれる男、ジュゼッペ。オペラ、三段跳び、探偵ごっこ、昆虫採集。そしてあるとき一人の少女、ペチカに取り付かれてしまった。

 何をするにしても一生懸命なジュゼッペは、ときに愚かしくも見える。だが、その突き抜けた純粋さゆえ、得難い人物にも思えた。脇役のハツカネズミの、皮肉な物言いもまた愉快。
 苦笑させられたり、しみじみ考えさせられたり……童話のようなストーリーだが、どんな年齢の人が読んでも楽しめる一冊であろう。
80点
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ぶらんこ乗り

いしいしんじ(新潮社)

 ものすごく頭が良くて大人びてて、ぶらんこに乗るのが得意な私の弟。でもある事故がきっかけで、弟は声を出せなくなってしまう。そして弟は話すかわりに、ノートに物語を書くようになった……。

 弟の「おはなし」がとても良い。真っ直ぐで、ちょっと残酷で切なくて。特に「歌う郵便配達」が素晴らしかった。
 いっぽう「私」の話し方はカンに障って仕方がなかった。「私、××って思った」といった助詞がない文章は、内容まで薄く感じてしまった。

 ラスト近くでの十枚のはがきのエピソードには深い感動を覚えた。それに隠されていたある秘密もまたしかり、読んでいて何度も涙があふれた。
 年端もゆかぬ弟がこんな心遣いを? と出来すぎな感じは否めないが、それでも彼の優しさには心打たれた。
85点

さらば国分寺書店のオババ

椎名誠(新潮社)

 最初に読んだ時は、心底驚いた、おもしろくて。軽妙でリズミカル。でも今となってはこういう文体にも慣れてしまい、もうごちそうさま、という感じさえする。……と、試合放棄は良くない。

 不機嫌で不親切なバスの運転手の話などは、普遍の面白さがある。
 それから私が感激したのは、シーナ氏もウニに眼がないという話(ウニ好きに悪い人間はいないのだ)。全国ウニ好き友の会々長(嘘)の私としては、シーナ氏にかなり親近感を持った。
70点

和解

志賀直哉(角川書店)

 父親との長年に渡る不和の末に、やっとこさ仲直りできた息子の話。
 '78年に読んだ本。格別印象に残らない作品だったのだが、読み返してみたら、案外よかった。
 でも、父親と和解する以前の話は、やれ腹の底から腹が立っただの、やれこんなこと言われて、不愉快だっただの、そんな文ばかり。しかも生後間もない赤ちゃんが急死したりして、なんとも陰鬱な内容。しかしその後の、子供の誕生、和解成立のシーンなどは、なかなかの出来栄えだと思う(何様じゃ)。
 出産に立ち会う場面では、はじめは「醜い妻を見たくない」なんてほざいていたが、いざ生まれてみれば「醜いものは一つもなかった。……すべては美しかった」。
 ったく、たわけ者め。
65点

娘に語るお父さんの歴史

重松清(筑摩書房)

 昭和38年生まれの「お父さん」が娘に語ってきかせる等身大の昭和史。
 筆者も「お父さん」と同じ年齢。ということは、まさに重松氏の歴史を語ったのであろう。
 テレビはすでに居間にあり、新しいモノ、誰もが欲しくなるものを発信し続けていた時代。
 パパ・ママという呼称が一般的になり、子供からみた親は無条件に尊敬する対象ではなくなっていった時代。
 皆が中流意識を持つようになり、そこからはみ出た人々を思いやる余裕のなかった時代。
 筆者はそんなふうにこの時代を切り取った。

 私も同世代なので、けっこう興味深く読むことができた。が、結末がいけない、というかあまりにも当たり前の話になってしまっている。
 1960年代からこれまでを振り返って、ただ感傷に浸ってみたかっただけ? と思ってしまった。
55点

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