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よしなしごとども 書きつくるなり
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荻原浩(光文社)

 不眠や物忘れに悩んだ佐伯は、精神科を受診する。そこで思いもよらぬ病名、「若年性アルツハイマー」を宣告される。次第に進む病状に、彼は恐怖と焦りを覚えるのだった……。

 アルツハイマーという病気の恐ろしさに、幾度も読むのを中断させられた。
 決して回復することはなく、進行を遅らせるのがやっとだというこの病気。自分が何者であるのかも分からなくなっていくというこの病気。それは「死」よりも残酷なことではないだろうか。
 終盤、佐伯が昔陶芸をならった師のもとを訪れる部分がとても良かった。達観とまではいかないが、彼が穏やかな気持ちを取り戻す瞬間が確かにあったことを丁寧に描いていて、良かった。
85点
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横山秀夫(集英社)

 短編集。
 表題作の『第三の時効』が良かった。
 15年前に起きた暴行殺人事件が時効を迎えようとしていた。が、犯人が海外に渡航した事実があり、その日数の7日間時効は延長された。刑事たちは犯人の誤認に期待して彼からの連絡を待つが……。

 事件の真相の意外性もさることながら、刑事たちの本音のぶつかりあいが読ませる。冷血漢の楠見と情にほだされる森。二人の対比が鮮烈な印象を残した。
 他に『密室の抜け穴』も良かった。犯人逮捕のシーンは緊迫感があり、胸が高鳴った。
90点
松本清張(角川書店)

 主人公である「桐子」の執念深さに怖気を震った。
 自分の兄が無実の罪で刑務所に入り、それを助けるべく有名な弁護士に弁護を依頼する。でも断わられる。で、兄は獄死する。
 そこからの彼女は弁護士への復讐のためだけに生きているように感じられる。そのエネルギーだけが彼女を突き動かし、ある意味彼女の「生きがい」となってしまったようだ。
 これを読むと、人間の持っているパワーの中で一番強力なのは「憎しみ」なのかと思えてくる。
80点
荻原浩(新潮社)

 とある広告代理店が、新しい香水を発売するために、女子高生たちにある噂を吹き込む。
 「レインマンというレイプ魔が女性の足首を切断するらしい。が、その香水をつけていれば襲われずに済む」と。
 またたく間に噂は広がり、戦略は成功したかにみえた。しかしその後足首のない他殺体が発見され、噂は現実となる……。

 どの場面も現実感があってとても良かった。主人公の刑事・小暮と、その娘の会話。渋谷にたむろする少女たちの生態。そして少女が犠牲者となるシーン。どれもうまい。
 また、無駄な登場人物がいないため、ストーリーがとても分かりやすかった。分かりやすいのに犯人は文章の中に巧妙に隠されていて、正体が明かされるまで興味を持って読むことができた。
 そして最後の一行。そうきたか。小暮の今後が気になるところである。
80点
横山秀夫(文藝春秋社)

 85年、日航機墜落事故が起きる。群馬県の地方紙記者、悠木は全権デスクに任命される。
 未曾有の大事故に翻弄される社内。醜い派閥争い、利害の絡み合いに、悠木の神経は磨り減ってゆく。
 彼の気がかりはもう一つあった。共に谷川岳を登る約束だった友人、安西の安否である。倒れて病院に運ばれたという彼の身に何が起きたのか……。

 新聞を手にしたとき「今日は日航機のどんなニュースが載ってるかな?」と思ってしまうほど、この小説はリアルで迫力があった。
 まず新聞社の内情という、今まであまり知らなかった世界を、筆者は鮮やかに描き出してくれた。報道という崇高な使命を帯びているはずの男たちの泥仕合には、何度も呆然とさせられた。
 そして同時進行する「17年後の悠木」もまた読ませる。
 安西と行くはずだった衝立岩に、彼の息子と二人で挑戦する悠木。そこで彼が見たものに私の気持ちも激しく揺さぶられ、涙を止めることができなかった。
100点
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