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邂逅の森

熊谷達也(文藝春秋社)

 秋田県のとある寒村育ちの富治。
 彼は、熊やカモシカを獲って生活する「マタギ」として、充実した日々を過ごしていた。だが、ある事件がきっかけで、村を追われる身となった彼は、マタギをやめて鉱夫として働かざるを得なくなる……。

 狩猟なんてほとんど興味がないし、汗臭いだけの男たちの話だったらどうしようと危惧したが、そんな心配は無用だった。
 息詰まるような熊との死闘。突然牙を剥く大自然の恐怖。富治を中心として描かれる、友情と恋愛。それらが次から次へと活写されていて、まったく飽きさせない。
 ただ、性描写があまりにも生々しく、ふつうは楽しんで読んでしまう(!)私でさえ、ちょっと引いた。
85点
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よもつひらさか往還

倉橋由美子(講談社)

 「慧」くんはふらりととあるクラブを訪れては、バーテンダーの九鬼さんに怪しげなカクテルを作ってもらい、異界へと旅立つ・・・連作小説集。

 タイトルの「よもつひらさか」は「黄泉平坂」で、古事記に出てくる現世と黄泉の国の境となる坂のことだそうだ。
 なるほど、慧くんの身に起こることは妖しく、幻想的である。不気味な描写もあるが、不快には感じなかった。
 ただ、五言絶句やらギリシャ神話やらが当たり前のように会話に登場し、学の無い私は置いてきぼりをくらったような気になった。
70点

クラウド・コレクター <手帖版>

クラフト・エヴィング商會(筑摩書房)

 昭和九年、クラフト・エヴィング商會の店主となった祖父。その孫である三代目が、祖父が使用していたトランクから、謎の旅行記を発見する。
 アゾットという、聞いたこともない国に関する不思議な話。どうやらそれは「空想旅行」であったようだが、なぜ祖父は膨大で緻密な「嘘」をしたためる必要があったのか?

 たくさんの言葉遊びが物語の中にちりばめられていて、とても面白かった。特にアゾットへ行くためのおまじない「ひい ふう みい」に隠された意味には、思わず感心し、そのあと苦笑してしまった。
 それから、少しこじつけっぽい話もまたふるっている。なぜ人は涙を流すのか? という問いへの答えなど、私も三代目と一緒に感動すら覚えてしまった。

 全編を通して記憶、忘却というモチーフが繰り返し語られるが、雲や蒸留酒になぞらえて物語が次第に収束していく終盤は、わくわくしながら読むことができた。
 雲って、そうなんだ……と空を見上げたくもなった。
80点

お縫い子テルミー

栗田有起(集英社)

 プロの仕立て屋テルミーこと照美。15歳のとき故郷をあとにして歌舞伎町へやってきた彼女。最初は水商売のかたわら縫いものをしていたが、お店の歌手であるシナイちゃんに注文をもらってから、次第に仕立ての依頼が増えていき……。

 どうもつまらなそうだな、と思いながら読み始めたが、予想は裏切られた。
 テルミーの生き方は「?」な部分も多いが、自分の力で自由を得るあたりの展開は胸がすく思いがした。シナイちゃんに寄せる切ない思いも、よく伝わってきた。
 ひるがえって、なぜ「つまならそう」と思ったか考えたのだが、この作品は題名で損をしているのではないだろうか。「お縫い子」という古めかしい言葉が、とっつきにくさを感じさせた。
85点

漂流物

車谷長吉(新潮社)

 短編集。
 表題作の「漂流物」の中で語られる、おそらくは筆者の過去の出来事が胸に迫る。

 彼は会社を辞し、流れ流れて料理屋で働くこととなった。そこで出会った青川という男が、彼に打ち明け話をする。その凄惨な内容が、改行のない文章でもって、ぐいぐいと書かれている。
 「語り」は多分に「騙(かた)り」であり、語るということは血みどろであると筆者は言う。「書くな」と血族に言われたことまで書いてしまった筆者。身の破滅に通じるような告白をせずにはいられなかった青川に、筆者は自分の因業を重ね合わせて見たのであろう。
 そのほか、「愚か者」の中にある筆者による筆文字は、味わい深く、だがどこか寒々とした薄気味悪い文字であった。
70点

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