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よしなしごとども 書きつくるなり
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柳美里(角川書店)

 後味悪し。ディティールが……石鹸にへばりつくナメクジとか、ミスすると脇腹をつねるピアノ教師とか、枚挙にいとまがない。ぴか一は友人の父親に性的いたずらをされるシーン。私も自慢できるような家庭で育たなかったので、こういう大人達のどす黒い醜さを目にしてしまったクチである。だから読んでいて胸がムカムカした。
 子供だと思ってなめんなよ、理解できないフリしててやるけどさ……子供にそんなふうに思わせる大人は最低である。
75点
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荻原博子(角川書店)

 建材には向かないとされるクリの木を使って、木造軸組工法で家を建てた筆者の奮闘記。

 自分も家を建てる前にこの本に出会っていれば……とほぞを噛んだ。こじゃれた洋風建築に目を奪われ、和風と聞いただけで毛嫌いしていた自分がどんなにマヌケだったか思い知らされた。
 ただ、どんなに頑張っても、この筆者のマネはできないと思う。第一に豊富なコネ。こういう家造りは人脈がものをいう。それと金。ふた言目には「手が出ない」と言いつつ、かなりな資金力である。
 あまりに恵まれていて、苦労話も自慢話に思えてくる。次第に不快感が募る話ではある。
70点
町田康(講談社)

 エッセイ集。
 独特の文体ゆえ、理解不能な部分もあった。そして虚実のあいまいな部分も。だがそんなことを気にせずに読んでいくと、するっと分かってくる(あるいは分かった気にさせてくれる)。

 「地獄の快男児」。ファストフード店でフライドポテトの処理に困る筆者。いらない。けど捨てられない。しねしねと芋を食う筆者。くだらなくも面白い。
 全体的に筆者は朝令暮改、そのポリシーのなさはかえってすがすがしい。
65点
夢枕獏(文藝春秋社)

 ううむ、おれは京極夏彦のあやかしの話をほつほつと思い出したぞ……陰陽師(おんみょうじ)ふうに言うとこうなるか。
 時代小説はほとんど読まないのだが、この本を読んだら、こういうみやびな世界にも興味をそそられた。
 嫋(じょう)と鳴る琵琶の音、ふうわりと身に纏った狩衣(かりぎぬ)。加えて主人公の陽陰師安倍清明は長身で色白、目元は涼しく秀麗な顔。あぁもっと読みたい。ハマってしまいそうな自分がこわい。
80点
松本清張(新潮社)

 五つの短編が収められているが、表題作『巨人の磯』が面白かった。
 茨城の大洗海岸。死後二週間と目される膨張した死体が漂着する。捜査線上に一人の男が浮かぶが、彼にはアリバイがあった。そこにはどんなトリックが?

 私事であるが、大洗といえば海水浴にも行ったことがある。また、被害者の別荘があるという五浦海岸もよく知っている場所である。それらのことが相まって、まるで現実に起きた事件のように、興味深く本書を読んだ。
 もちろんストーリーも良かった。次々に謎を読者に広げて見せ、最後の最後ですぱっと事件を解決する……清張らしい、引き締まった短編であった。
75点
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