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忘却の河

福永武彦(新潮社)

 過去に犯した罪に囚われている父。病気で寝たきりの母。控えめで内気な姉。自由奔放で元気な妹。姉をひそかに思う男。五人が次々に語る、苦悩に満ちた内面とは……。

 始めの章の語り手は「父」なのだが、中年オヤジのたわ言といった内容であまり面白くなかった。が、続く姉と妹の章では家族の食い違う気持ちと軋轢が見事に描かれ、その次の母の章では衝撃の過去が語られて、怒涛のごとく面白さが増していった。
 ラストの章は再び父が語り手となるのだが、始めのときとは違って彼のひと言ひと言は傾聴に値するものとなった。「(妻は)ふしあわせな女だった、(略)おれを許してくれ、おれはそういう男なのだ。いつでも、どうにも出来ないでいる男なのだ」……亡き妻に切々と詫びる彼ではあったが、その深い嘆きは行き場のないものであり、いつまでも宙をさまようものとなった。
 しかし最後の最後に、彼は娘たちと心を通わせあって癒しを得る。その輝くようなラストシーンは読み手をも救済するような良い結びであった。
95点
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