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夫婦の一日

遠藤周作(新潮社)

 短編集だが、エッセイのようでもありフィクションのようでもあり。
 一番衝撃的だったのは「六十歳の男」という作品。この中で六十歳を過ぎた男が、この歳になっても死の恐怖に襲われることがあるというくだりがある。歳をとるに従って「諦観」というか「もう充分」という気持ちになるのかと思っていたのだが、そうでもないらしい。むしろ若い頃より確実に死に近いわけで、怖さ倍増、その恐怖感はより具体的なのかも。
60点
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早く昔になればいい

久世光彦(新潮社)

 「私」は十四歳のころに友人達と狂女の「しーちゃん」を輪姦してしまう。その後彼女は誰の子とも分からない子供を出産し、やがて早死にしてしまう。「私」は四十年ぶりに故郷へ舞い戻り、当時の記憶を探るが……。

 テーマは暗いが、そこはかとなく軽やかな印象を受ける作品である。
 最も印象深いのは「私」が回想する、事件のときの「しーちゃん」である。彼女の身に纏っていたもの、彼女の行動、彼女の身体。執拗にその描写が繰り返される。
 それは「いやらしい」と片付けてしまうのが憚られるくらい、ひたむきで切ない。
70点

沈黙

遠藤周作(新潮社)

 切支丹が激しく弾圧されていた時代、遠くポルトガルから、命からがら日本へとやってきた司祭、ロドリゴ。彼もやがては囚われの身となってしまう。最後の瞬間、彼は踏み絵を踏むのか否か。

 宗教についてここまで考えさせられたことは、未だかつてなかったように思う。
 棄教を迫られ、自らの命が危険に晒されても信仰を捨てない信徒たち。だがどんなに苦しんでも悲しんでも神は「沈黙」しているのである。それはなぜか。
 神とはひたすら「感謝」を捧げるためだけの存在なのか。それ以前に、存在として捉えていいのか。
 無宗教の私には重すぎるテーマではあった。だが心を打つ素晴らしい作品であったことは間違いない。
90点

懐郷

熊谷達也(新潮社)

 七つの短編が収められている。『鈍色の卵たち』が良かった。
 集団就職をした教え子・聡に会うため、教師である貴子は東京へと赴く。聡は優秀で大人びた生徒だった。貴子は彼の才能を買って、働きながら夜間高校に進むよう指導したのだったが……。

 聡が書いた詩をとおして貴子が彼に惹かれてゆく部分がとても鮮烈だった。彼の感性が、才気が、彼女の心を揺さぶって淡い恋心を芽生えさせる。そこからラストまで、貴子の愛情や逡巡が細やかに描かれていて、容易に彼女に感情移入することができた。
70点

遠藤周作(新潮社)

 通商を始めるためにノベスパニヤ(メキシコ)に使者が派遣されることになる。格式ひくい武士である「侍」のほか、幾人かの使者衆、通訳兼宣教師のベラスコが同行する。
 行く先々で苦難に遭遇し、ぼろぼろになった彼らが最後に見たものは、一体何だったのか。

 侍・長谷倉の絶望もいかばかりだったかと思うが、宣教師ベラスコのそれのほうに心を捉えられた。日本という国にキリスト教を布教するという彼の望みは、ことごとく退けられ、ついえた。だが、絶望してしかるべき彼は思う。これが地上の現実だ、と。汚くて悲惨なこの地上に生きたことこそが、意味のあることだったのだ、と。
 宣教師たちの目から見た日本という国が、あまりにかたくなで無慈悲で、本当に読むのがつらかった。
90点

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