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この子の七つのお祝いに

斎藤澪(角川書店)

 病弱な母親と二人、極貧にあえいでいた少女、麻矢。彼女が七つになる年に、母親は自殺した。少女の胸には、母親から繰り返し聞いた、不実な父への怨みが深く刻まれた。「とおりゃんせ、とおりゃんせ……」という、母親が歌う復讐の子守唄とともに。

 謎解きの部分、第7章~終章が読ませる。真実があまりに切なく、麻矢の運命があまりに残酷で、読後感は「悲しい」のひと言に尽きる。
 全体にいろんな話が盛り込まれてて(手相の話、捜査における八何の原則など)興味深く読めた。だが「○○へ行って○○という事実を掴んだ」というように話を端折っているような部分があり、筆者に手抜きをされたような印象を受けた。
70点
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赤い脣、黒い髪

河野多恵子(新潮社)

 短編集。タイトルにもなっている『赤い脣』。親戚数人と紅葉狩りにでかけた「私」。孫娘の赤い脣(くち)と紅葉の赤が彼女のなかで交錯して、言い知れぬ不安感に襲われる。

 何かと捨て石の多い文章だと思った。主題から逸れているような描写の数々に、回り道をさせられているような気分になるのだが、読了すると無駄な部分などなかったことに気付く。
 他には『大統領の死』。正常と異常の狭間で揺れ動く主人公の、その振り幅の取り方がうまい。
70点

黄落

佐江衆一(新潮社)

 読んでいるほうもため息が漏れるような作品。老人がもっと老人を介護する話なのだが、悲惨としか言いようがない。
 夫は自分の親の面倒を妻に看てもらうのが気がひけて離婚を切り出す。しかし妻は「あなたは卑怯よ」と応える。妻にして見れば「誰が離婚したいって言った?そんなこと言っている暇があるなら、ばーちゃんのおむつ取り換えてみろってんだ!」と思う訳です。

 長生きしてすみません、と思わせる世の中は、やはりどこか間違っていると思う。私も長生きする予定なので早くなんとかして欲しいものだ。
75点

葉桜の季節に君を想うということ

歌野晶午(文藝春秋社)

 主人公の成瀬将虎は、偶然の成り行きからとある会社を調査することになった。それは高額商品を売りつけて客の財産を搾り取る、悪徳商法の会社だった。しかも保険金殺人まで行っているらしい。成瀬の命懸けの調査は実を結ぶのか。

 ストーリーが、登場人物のみならず時間も錯綜するので、なかなか頭に入ってこなかった。でも文章は軽快だし、主人公のまっとうさ加減にも好感を持てた。
 ただ、大きな仕掛けが二つ隠されているのだが、一つは読んでいるうちに見当がついてしまった。私のような素人にも察しがつくとは……「2004年このミス」第一位には疑問を感じざるを得ない。
70点

透明な方舟

薄井ゆうじ(光文社)

 短編集。
 『湾岸少女』を紹介しよう。
 環境コンサルタントである紫穂のもとに、あるとき羽美という少女が訪ねてくる。少女は父親を探しているのだという。紫穂の恋人でもある父親を。

 風景の描写がとても独創的ですばらしく、ここまで机上で描けるものかと感嘆した。
 『打ち寄せる波は、紙をくしゃりとまるめたときのような小さな音しか立てない』……こんな表現が特に気に入った。
 ただ、独創的なだけに、読む側にとって少しでも的外れだったりすると、途端にストーリーの流れを遮断してしまう。いわば諸刃の剣でもあるように思えた。それは私の場合はほんの数箇所ではあったが。
70点

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