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よしなしごとども 書きつくるなり
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姫野カオルコ(集英社)

 ホラー短編集。
 『ほんとうの話』が面白かった。
 幼いころから霊感が強かった「私」。級友が事故で亡くなったとき、お手伝いのおばあさんが亡くなったとき、「私」は彼らの声を聞いた。
 ただ不惑の歳を迎えようとしている今は、その霊感もだいぶ薄まったように感じていた。が、あるとき、帰省中の「私」は不思議な光景を目にする……。

 いわゆる「よくある話」なのだが、「私」の心情が細部まで丹念に書き込まれているせいか、かなり恐怖感をあおられた。特にラストの学校のシーンは怖かった。
 その他『女優』も良かった。最後の二行にはかなり驚かされた。
75点
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百田尚樹(講談社)

 第二次世界大戦で特攻隊員として死んだ祖父。孫の健太郎は、フリーライターをしている姉に頼まれ、祖父の生涯を追うことになる。戦友たちが語る祖父の人物像とは……。

 いわゆる戦争モノと言われる本をわずかばかり読んだことはあったが、どれもこれも陰惨で、もうこの手の本は読むまいと思わせるものばかりだった。が、この作品を読んで意識が変わった。戦争モノ、素晴らしいじゃない!

 健太郎の祖父・宮部は、志願兵でありながら死ぬことを極度に恐れていたため、周囲からは臆病者と蔑まれていた。しかし抜群の飛行技術を持ち、部下にも優しく接し、いつも紳士然としていたため、慕う人間も多かった。
 彼は妻子のために絶対生きて帰ると心に誓っていた。それを態度に表すことこそ、当時は勇気が要ることだったのだ。そんな彼が、なぜカミカゼとなったのか?
 そのわけが明らかとなったとき、本当に涙が止まらなかった。彼の男気に心底感動した。
 他に、零戦の性能のこと、軍の上層部の無能ぶり、真珠湾攻撃の真実等々、まったく興味も知識も無かった事柄について知ることができ(どこまでノンフィクションなのか不明だが)、その意味でも優れた作品であった。
95点
福永武彦(新潮社)

 過去に犯した罪に囚われている父。病気で寝たきりの母。控えめで内気な姉。自由奔放で元気な妹。姉をひそかに思う男。五人が次々に語る、苦悩に満ちた内面とは……。

 始めの章の語り手は「父」なのだが、中年オヤジのたわ言といった内容であまり面白くなかった。が、続く姉と妹の章では家族の食い違う気持ちと軋轢が見事に描かれ、その次の母の章では衝撃の過去が語られて、怒涛のごとく面白さが増していった。
 ラストの章は再び父が語り手となるのだが、始めのときとは違って彼のひと言ひと言は傾聴に値するものとなった。「(妻は)ふしあわせな女だった、(略)おれを許してくれ、おれはそういう男なのだ。いつでも、どうにも出来ないでいる男なのだ」……亡き妻に切々と詫びる彼ではあったが、その深い嘆きは行き場のないものであり、いつまでも宙をさまようものとなった。
 しかし最後の最後に、彼は娘たちと心を通わせあって癒しを得る。その輝くようなラストシーンは読み手をも救済するような良い結びであった。
95点
福永武彦(扶桑社)

 加田怜太郎というのは福永武彦のペンネームで、アナグラム(並べ替え)で「誰だろうか」となるわけです。この遊び心が良い。とにかく本人が楽しんで書いているというのが滲み出ている作品集。

 内容的には本格派ミステリーというくくりになるのであろうが、なんとも古めかしい感じがする。でもそれもあまり気にならない。私は作品の雰囲気を楽しんだ。
 巻末の「付録」も豪華執筆陣で、読んで損はない。
70点
石田衣良(文藝春秋社)

 中学二年生の幹生。彼の弟カズシが幼女を殺害し、警察に補導される。十三歳の殺人犯に、世間は騒然となる。

 神戸で起きた酒鬼薔薇事件を想起させる設定だが、筆者は事件の表面的なことに目を奪われることなく、新しい観点からこの作品を構築している。
 幹生は転校もせず、悪質なイジメやいやがらせにも屈せずに、弟に対する疑問を解いていこうとする。まっすぐに、真剣に。
 世間の冷たい風によって、彼は皮肉にも人間として大きく成長していくのである。
 ただ、最後に明かされる事実が「よくあるパターン」で少し失望した。
70点
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