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よしなしごとども 書きつくるなり
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江戸川乱歩(新潮社)

 温故知新。そんな四字熟語が脳裡をよぎる今日この頃。いやはや予想以上に面白かった。
 「人間椅子」が特に気に入った。丁寧に、存分に不気味なムードを盛り上げるテクニック。そして最後のオチ。「それはすべて夢だった」ってのは推理小説界のタブーだが、このラストは「あり」でしょう。
80点
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江國香織(新潮社)

 アル中の妻、笑子。ホモの夫、睦月。彼のホモダチ、紺。
 情緒不安定な笑子に、病的な掃除好きにして、サド的正直さを持つ睦月。この二人、どう転んでも上手くいくはずがないだろう。それに紺の直情的な性格もなんだか白々しい。
 「あとがき」に、タイトルは他人の詩の中から、章の見出しは絵画のタイトルから借用、と書かれていた。ここに如実に作家の軽さ(悪い意味での)が出ていると思った。何が書きたいかではなく、字ヅラだけで単語を選んでいるのではないだろうか。
40点
黒川博行(講談社)

 凶暴で腕が立つ極道の桑原。建設コンサルタントをしながら法律すれすれのサバキで稼ぐ二宮。二人は、ある詐欺師の行方を追って、北朝鮮へと渡る。そこで二人が見たものは……。

 かなり分厚い文庫本だが、テンポ良く読めた。主人公二人の丁々発止のやりとり。次々に出てくるワルい奴ら。そして何より、北朝鮮という国の描写には息をもつかせぬ迫力があった。
 もちろん、かの国の実情がこの作品どおりだと鵜呑みにするわけにはいかないが、それでも当たらずとも遠からずなのではないかと思う。差別、猜疑、貧困、虚飾。読めば読むほど、本当に絶望的な気持ちになった。
80点
海月ルイ(文藝春秋社)

 三人の女性が「子供」をめぐって織り成すサスペンス。
 旧家に嫁いだ美津子。なかなか子供ができない彼女は次第に追い詰められてゆき、ついには妊娠を偽装する。
 看護婦の潤子。夫の女癖の悪さに辟易して、幼い娘を連れて家出するが、子供を取り上げられ会うことさえ出来なくなる。
 ホステスのひとみ。怠惰な生活の果てに望まない妊娠をする。始末に困って潤子に堕胎を依頼するが、潤子は普通分娩をさせ、生まれた子供を美津子に託す……。

 無関係だった三人の運命が次第に絡まりあっていく展開が鮮やかである。
 ただ、人物描写は型通りである。特にひとみに関する、万引き、売春、過食などという部分は、お定まりの表現で読み流してしまった。
75点
黒武洋(新潮社)

 のっけからクライマックスの連続。無駄がなくてパワフル。これが新人の書いたものだということにまず驚いた。私、めったにやらない「一気読み」をしてしまいました。

 最低最悪の高校の女教師が、卒業式の前日に生徒全員を人質に校舎内に立てこもった。次々に殺されていく人質。このショッキングな設定は、A・クリスティの「そして誰もいなくなった」を、究極まで激しく、熱くしたらこうなるか、と思った。
 そしてこんなに「犯人」に肩入れしたくなる小説も珍しい。厳しく取り締まって、不正な者を除くこと……粛清。大賛成である。
 ただ一つの難点は、漢字。見慣れない漢字が多用されている。これは読んでいて引っかかるのだが、何か意味があるのだろうか。
95点
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