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中二階

ニコルソン・ベイカー(白水社)

 サラリーマンらしきある男が、会社の昼休みに買い物などを済ませて、エスカレーターで中二階にあるオフィスに戻ろうとしている。そのエスカレーター上の数十秒間の彼の思考が、まるまる一冊の本になってしまった。

 こんな風変わりな小説は初めて! 場面が、エスカレーターから金輪際動かない(もっとも彼の思考はあちこち飛びまくるのだが)のも驚いたが、長い長い注釈にも驚いた。それが作品の半分くらいを占めているのだが、本文を読んでは注釈を読み……という作業は、字が小さいのも相まっていささか疲れた。

 彼の微に入り細を穿つ思考は、ときに小気味良かった。ポップコーンの意外性に同意し、製氷皿の歴史のくだりではノスタルジーに浸った。
60点
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超訳 ニーチェの言葉

フリードリヒ・ニーチェ(ディスカバー・トゥエンティワン)

 ニーチェなんて読んでしまいました、すみません。
 1ページにひとつずつ、平易な言葉でニーチェの言葉が書かれているのだが、そこにはやはり深い思想やら洞察やらが含まれているのであろう。それを理解できたか? と問われたら甚だ心もとないから、つい謝ってしまった。
 閑話休題。
 心に響いたいくつかの言葉を書いておきたいと思う。

 「他人をあれこれと判断しないこと。他人の値踏みもしないこと。人の噂話もしないこと。……(略)こういう点に、良き人間性のしるしがある」
 む、難しい。でも心掛けたい。

 「きちんと考える人になりたいのであれば、最低でも次の三条件が必要になる。人づきあいをすること。書物を読むこと。情熱を持つこと」
 私には、ひとつめの条件のハードルが高い。

 それから、たぶんニーチェが最も望まないであろうことが、読んでる間中脳裏をよぎって仕方がなかった。
 「まったくその通り、この一説を、あのおたんこなすに読ませたい!」。
 ……他人はいいから、まず自分の行いを振り返れって話。
80点

冷たい水の中の小さな太陽

フランソワーズ・サガン(新潮社)

 新聞社に勤める美しいジルは、突然ノイローゼになる。彼は同棲中の恋人をパリに残して、姉のいる田舎に静養しに行く。そこで美貌の人妻ナタリーと出会い、恋に落ちる。
 と、粗筋を書いただけでも虚脱感を感じる作品である。
 ジルは、軽薄で浪費家で猜疑心が強く、彼を愛するものを傷つけずにはいられない人間であった。
 自分の愛するものが、自分より聡明だったり、自分を批判したりすると、とたんに不機嫌になる彼。まったく器が小さい男である。
 ラストで起きる「事件」は衝撃的だったが、少し安易な気もした。
50点

停電の夜に

ジュンパ・ラヒリ(新潮社)

 九つの短編が載っているが、私が好きなのは、まず「停電の夜に」。
 妻が死産したことによって夫婦仲が冷え切ってしまった男女。二人は停電の夜ごと、秘密を打ち明けあうことにした。カンニングしたことがある、そんな他愛のない話。そして最後の夜……。
 夫が妻を描写するときの目線がかなりシビア。家で寛いではいけないということか。

 次に「三度目で最後の大陸」。結婚を期にアメリカへ移住したインド人の男が、ほんの数週間とある家に下宿することになった。そこには百三歳の老婆が一人で暮らしていた。気難しいが優しい老婆。男は、老婆と離れてしまってから彼女の「良さ」に気付かされる。
 どの作品も何の変哲もないことを、味わい深く描き出している。
80点

どちらでもいい

アゴタ・クリストフ(早川書房)

 短編集。
 というよりも断片集といったほうがいいかもしれない。非常に短く、あまり意味の分からない夢想のような文章も混ざっている。

 『郵便受け』という作品は面白かった。
 孤児院で生まれ、今や人生の成功者となった「私」。いつか本当の父や母から手紙がくるのではないかと想像する。「あなたが立派になってうれしい。年老いた私を援助してはくれまいか」、そんな手紙。
 ある朝「私」の郵便受けに、父親からの手紙が届く。そこに書かれていたことは……。

 「私」が望んでいたような親は現れなかった。自分を捨てたことを後悔し、足元に跪くような親は。不幸な親を救う自分。彼の二段構えの暗い願望には、人間の業の深さをみたような気がした。
45点

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