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よしなしごとども 書きつくるなり
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高村薫(文藝春秋社)

 雑文集。読売、毎日、日本経済新聞などに発表された文が多い。
 高村氏というのは、その作品どおり、考え方の硬いかたのようだ。それは悪い意味ではなく、きまじめというほどの意味である。
 日本語の衰えを憂え、狭くてモノが溢れている住宅環境を憂え、一人で食事をする子供たちの生活を憂える。きまじめゆえの、心配性でもあるらしい。

 硬い話題が多い中で「折々の花」という一文が目をひいた。小さい頃、夏といえばカンナ、ダリア、きんせんかなどの花が路地に咲いていた。今はほとんどそれらを見掛けない、という話。
 花にも流行り廃りがあるのだろうか。
65点
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高村薫(講談社)

 昭和51年の南アルプス。ある家族は一家心中を図り、子供だけが生き残る。またある男は狂気と混乱の果てに、登山者を撲殺してしまう。さらにもう一つ、重大な事件が起きていた……16年後に連続殺人事件へと発展する、まさに重大なる事件が。

 ひと言で言うと、非常に難しい作品であった。まず警察の機構というものが複雑すぎて把握しきれない。それから、物語の後半では殺人犯・マークスの心情がほとんど描かれていないので、彼の動機は想像するしかなく、常に「何故彼はそうしたのか」という疑問が付きまとう。
 しかしながら、読む進む上でのそんな困難を補って余りある魅力が本作品にはある。主人公の刑事、合田の苦悩や焦燥が存分に描かれていて圧巻であった。彼と他の刑事、事件の関係者との丁々発止のやり取りも、かなり引き込まれた。
70点
高村薫(毎日新聞社)

 上下巻しかも二段組。こういう本をむさぼり読みたいのだ、私は。でも時間と気力が……
 って愚痴はこれくらいにして、面白かった。驚いた。抜群の構成力。警察の、新聞社の、一流企業の内幕を何故こんなにリアルに描けるのであろうか。旋盤についての描写は、模倣犯が出現するのでは? と余計な心配をしてしまうほど。
 いつか再読したい。でも時間と気力が……ってエンドレスだな、こりゃ。
90点
久坂部羊(幻冬舎)

 麻痺して動かなくなり、回復の見込みも無い手足のことを廃用身という。漆原医師は、本人のみならず介護者にも負担増となるその廃用身を、切断することを思い付く。
 その画期的な方法は、行き詰まりを見せている老人介護に、希望の光を投げかけたかのように見えたが……。

 ノンフィクション? と思わせるような、凝った作りになっている。
 たぶん一部は真実なのだろう――介護者の1/3が、お年寄りに憎しみを抱いている、想像を絶する虐待が行われている等々――恐ろしいことだが。
 さて、果たしてこの療法は是か非か。筆者はどちらとも断言はしていない。
 が、漆原の持つ根源的な闇の部分をこういうふうに描いたということは、心情的に非なのかもしれない。
 だけれど近い将来、老人介護が立ち行かなくなったら、非とばかりも言ってられないのでは? そんな問いかけを発しているようでもある。
70点
大平健(新潮社)

 精神科を訪れた患者に、医者が昔話を語ってきかせる。引きこもりの息子の親には「三ねんねたろう」の話を。良き妻を演じて疲れきり、離婚を考え始めた女性には「つる女房」の話を……。

 物語療法? いったいどんな療法なのだろう? とかなり興味を惹かれて本書を読んだのだが、期待外れだった。
 たぶん筆者は多くの患者に昔話をして、それなりの成果をあげてきたのであろうが、本当にこんなに上手くいくものだろうかという疑問が残った。
 だいたい「どうしてその話とこの患者の話がシンクロするのか?」という部分もかなりあって、それはいわゆるこじつけでは? なんて意地悪く思ってしまった。
40点
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