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よしなしごとども 書きつくるなり
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パトリック・ジュースキント(文藝春秋社)

 子供向けの本なのかもしれない、挿絵もあるし。でも大人でも充分楽しめると思う。昔新聞の書評欄で見つけて、あまり期待せずに買ったのだが面白かった。
 ピアノのレッスンで鼻水つきの汚い鍵盤を弾かなくてはならなくなるシーンでは、声を出して笑った。
80点
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アガサ・クリスティー(早川書房)

 ある晩、皆に慕われていた神父が撲殺される。彼はある事件に関する重要な事実を握っていたらしい。学者であるマークは事件の真相を探るべく、とある館へと赴く。そこには人を呪い殺すと噂される三人の女性が住んでいた……。

 濃霧に包まれた夜、魔術、霊媒、メンデルスゾーンの葬送行進曲、とオカルトっぽい演出を散りばめながら、物語は進んでいく。しかも登場人物たちは(警察の関係者でさえ)「人知の及ばない事はある」というようなことをにおわす。
 これは本当に「トリック無し、呪いに因る死」という結論に達してしまうのか? ミステリの女王と言われたクリスティーがそんな作品を書いたのか? と一種の恐れにも似た感情を抱きながら終盤まで読んだ。そして……
 ここでラストを語るわけにはいかないが、私の想いは杞憂だった、とだけ書いておこう。
75点
ルイス・サッカー(講談社)

 中学生のスタンリーは、太っちょで冴えない男の子。しかも運にも見放され、無実の罪で矯正キャンプに入るはめに。そこには「毎日一つずつ、直径1.5m、深さ1.5mの穴を掘る」というきまりがあった。スタンリーはある日キャンプを逃げ出そうと企むが……。

 キャンプにいる悪ガキたちが良い味を出している。ずるくて油断のならない彼らだが、本当は……おっと、それはラスト近くで明かされる。
 スタンリーの冒険譚もとても面白かった。次々と災厄が降りかかってくるのはお約束だが、それを乗り越えるたびに彼と一緒に安堵し、次第に強くなる彼をうれしく思った。

 あちこちに散りばめられた昔話、昔々話が、最後にまとまっていくワザは見事と言う他ない。無駄な話はまったくなかったと気付かされて、驚いた。
90点
ロアルド・ダール(早川書房)

 短編集。
 『南から来た男』が良かった。
 見知らぬ老人が「私」に賭けを持ちかけてくる。彼が負けたらキャディラックをくれるという。あいにく賭けるものが無いと言うと、彼は意外な提案をするのだった……。

 ライターで十回、ミスすることなく火を付けるという、その勝負のシーンでは思わず固唾を呑んだ。「ワン!」「ツウ!」とカウントが増えていくにつれ、高まる緊張感。その後に続く、背筋が寒くなるようなオチ。すばらしかった。
 他に、五十年振りに再会したいじめっ子に、一泡吹かせてやろうと企む男の話『韋駄天のフォックスリイ』も面白い作品だった。苦笑を誘われた。
75点
ローリー・リン・ドラモン(早川書房)

 五人の女性警官がそれぞれ主人公をつとめる短編が十、収められている。
 『傷痕』が良かった。
 マージョリーは強姦されかけ胸をナイフで刺された。「被害者サービス」から派遣されたキャシーは、彼女に優しく接する。後にマージョリーは警察の捜査で自殺未遂として片付けられてしまう。6年後、警察官となったキャシーはマージョリーが事件の再捜査を願い出ていることを知る……。

 独特の表現が多く、文章全体がとても斬新なイメージ。回りくどく思われそうな比喩もさらりと読ませる。
 また、キャシーの心理描写が的確だった。彼女の熱意が失われていく様が、一本の電話のやりとりであぶり出される。まるで手練れの作家のような文章に圧倒された。
70点
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