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よしなしごとども 書きつくるなり
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エラリー・クイーン編(東京創元社)

 67編もの短編が収録されている。
 エラリー・クイーンによる、ぞくぞくするような粋な序文。
 最初の作品『探偵業の起源』に書かれている、アダムとイヴによる笑える事の始まり。
 この二点を読んだ時点で、本作品集の出来の良さを確信した。もちろん期待は裏切られることはなかった。

 特に面白かった二編を紹介しよう。
 ある牧師の死後、書店から請求書が届く。牧師は生前、そこでいかがわしい本を買ったというのだが……『牧師の汚名』。
 独り暮らしの老人が自殺しようとして失敗した。事件を担当した新米警官は、二度とこんなことをしないようにと約束させて老人を釈放するが……『ある老人の死』。

 (今となっては)使い古されたトリックも多いが、それでも楽しんで読むことができた。
85点
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オースン・スコット・カード(早川書房)

 11の作品は、本当に同じ作家が書いたのかと疑いたくなるほど、物語の舞台も雰囲気も違った作品で、SFのごった煮といった風情。

 『呼吸の問題』が良かった。
 デイルはあるとき、息子と妻の息遣いがぴったり一致していることに気付く。その直後、二人は事故死する。次は飛行機事故。空港の待合所で待っている人々、その呼吸がそろっていることにデイルは狼狽する……。

 私もかねがね死の「きっかけ」について考えていた。神が決めた一定のルールがあって、偶然その行為をした者が急死することになっているのでは? と。呼吸が合ったらアウトだなんて、うまい設定を考えたものだ。
 他に便器から恐ろしい赤ん坊が出てくる『四階共同便所の怨霊』も、楳図かずおっぽくて面白かった。
85点
アストリッド・リンドグレーン(岩波書店)

 カッレは、名探偵になることを目指す少年。そのために(意味も無く)街を見回ってみたり、(空っぽの)パイプをくわえてみたりする。あるとき、友人のロッタのところに親戚のおじさんがやってくる。彼はいかにも怪しげで、探偵・カッレは俄然はりきるのだが……。

 13歳の少年、少女の日常がみずみずしく描かれている。カッレ家の裏に住んでいる、気が強い少女・ロッタ。いたずら友だちのアンデス。彼ら3人が戦闘を繰り広げるのは「赤バラ軍」の男の子たち。
 木登り、川渡り、他愛もない悪口を言い合うこと……すべてが楽しそうで、ウン十年前に過ぎ去った自分の少女時代を思い出した。
 カッレが巻き込まれる事件の描き方も非常に良くできている。彼が見つけた、一見どうでもいいような事柄が、次第に重要な意味を帯びてくるあたり、児童文学の域を超えた、推理小説としての面白さも味わうことができた。
75点
キョウコ・モリ(角川書店)

 主人公は高一の女の子「めぐみ」。もしめぐみが私のクラスメートだったら友人になれそうな気がする。学校では人と違うことをする子は変な目で見られるのが落ち。でも自分の感覚を信じたいって気持ちは良くわかる。
 彼女が思うことにはいちいち共感できるが、特に愛人を作って家に寄り付かない父親に対する言葉はツボにはまる。「父に同情すべきなのかもしれない。……そのひとのために何かをあきらめようと思うほど、ひとを愛したことがいちどもないのだから」。
 ただ、宗教がらみの部分が疑問だった。その部分が無くてもこの小説は充分成り立つと思う。
70点
パトリシア・ハイスミス(河出書房新社)

 中後期の短編集。
 表題作の『目には見えない何か』。
 ごく平凡な主婦のヘレーネは、ひとりでとあるホテルに滞在していた。そこで彼女は二人の男性から求婚される。
 だが彼女はどこか醒めたような態度で二人に接する。「みんなが私に関心を持つのは、もう私が他人を必要としていないからだ」……彼女はそう結論付けるのだった。

 45歳のヘレーネが、なぜそこまでモテるのか、ずっと謎のまま話は進む。もしかして、すべては彼女の妄想? と思い始めた矢先、唐突に物語は終焉を迎える。
 そのあっけないほどの結末が、なんとも物悲しい。求めると手に入らない、要らないと思ったときには、拒んでもやってくる。そんな人生の皮肉が込められているようだ。
 他の短編も甲乙つけがたいほど素晴らしく、『ゲームの行方』『狂った歯車』には、特にぞっとさせられた。
90点
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