忍者ブログ

漂流物

車谷長吉(新潮社)

 短編集。
 表題作の「漂流物」の中で語られる、おそらくは筆者の過去の出来事が胸に迫る。

 彼は会社を辞し、流れ流れて料理屋で働くこととなった。そこで出会った青川という男が、彼に打ち明け話をする。その凄惨な内容が、改行のない文章でもって、ぐいぐいと書かれている。
 「語り」は多分に「騙(かた)り」であり、語るということは血みどろであると筆者は言う。「書くな」と血族に言われたことまで書いてしまった筆者。身の破滅に通じるような告白をせずにはいられなかった青川に、筆者は自分の因業を重ね合わせて見たのであろう。
 そのほか、「愚か者」の中にある筆者による筆文字は、味わい深く、だがどこか寒々とした薄気味悪い文字であった。
70点
PR

金輪際

車谷長吉(文藝春秋社)

 短編集。
  どれもこれも、人間の奥底に潜む「悪」を突きつけるような、嫌な雰囲気の作品ばかりである。でも私はけっこうこういう世界は好きだ。
 表題作の「金輪際」。
 小学生の時に転校してきた澤田君は、とても利発な少年だった。彼の意地悪を、「私」は粛々と受け止め、子供らしい素直さをもって彼に接するのだった。しかし最後の最後まで「私」はコケにされ、大人になった現在、金輪際彼には逢いたくたくない、そう思うのだった。
 決して敵わない相手に対する憎悪が、澱のように溜まって、遂には溢れ出るさまがうまく描かれている。

 他に、随筆ふうの「変」もかなり恐ろしい作品だ。
 芥川賞を逃した夜、九人の選考委員に呪いをかけるべく、丑の刻参りをしたという。「死ねッ。」「天誅ッ。」と言いながら。ちょっと滑稽でもある。
80点

カレンダー

06 2025/07 08
S M T W T F S
1 3 4
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

カテゴリー

フリーエリア

最新コメント

[06/16 まきまき]
[06/16 ぴーの]
[06/10 まきまき]
[06/10 もか]
[06/09 まきまき]

プロフィール

HN:
まきまき
性別:
女性

バーコード

ブログ内検索

P R

カウンター

アクセス解析