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おめでとう

川上弘美(新潮社)

 12の短編が収められている。
 私が好きなのは「夜の子供」。
 二年間一緒に暮らした竹雄と、五年ぶりに偶然再会した朝子。二人はなんとなくナイターを見に行くことになり、そこでとりとめのない話をする。
 勝手なことを言う竹雄に、腹を立てる朝子。でも言い返したりはしない。「言い返して、なんとしょう」。そんな表現が、朝子の竹雄に対する距離感をうまく描いている。

 小物の使い方もまた絶妙である。竹雄の差し出すイチゴミルク。あの甘い味が私の口にも広がるような感覚をおぼえた。
 こういう何気ない短編集こそ、川上氏の真骨頂を示すものだ(でも長編も好きだけど)。
85点
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あるようなないような

川上弘美(中央公論新社)

 エッセイ集。
 この一冊を読んで、はっきりと分かった。私は川上弘美氏が大好きである。 呼び捨てにできないほど、である。
 だから彼女の作品について、ひいき目なしに評を書けるかどうか、はなはだ自信がない。
 まぁ一種のファンレターのつもりで書いてしまおう。

 このエッセイの中で、特に面白かったのが「なまなかなもの」。
 筆者は「ら抜き言葉」を使うことに、並々ならぬ嫌悪を感じていた。だがSMAPの歌う「夜空ノムコウ」を聴いて「ら抜き」の呪縛から逃れられたという。「何かを信じてこれたかな」、その一節が強大な力で氏をうならせたという。

 淡々とした文章のそこここに漂うおかしみ。友人に「こんなことがあってさぁ」と、話してもらっているような安心感。すべてが私好みであった。
90点

龍宮

川上弘美(文藝春秋社)

 短編集。ヒトでないものが人間社会に入り込んで、人間然として生きてゆく話が多い。
 「島崎」を紹介しよう。
 生まれて二百年ほど経っている「わたし」は、七代前の先祖を好きになる。人生相談などして生活しているご先祖様。好きだと告げると、あなたは冷静すぎる、と返すご先祖様。抱いてはくれないご先祖様。
 ストーリーは簡単で難しい。単純なパーツで複雑な世界が構築されている。
 ……今回の川上ワールド、ちょっと飛び過ぎで疲れた。
70点

椰子・椰子

川上弘美(新潮社)

 「わたし」が綴る、夢の世界。
 他人の夢の話ほどつまらないものはないが、この本はどうだろう。
 読んでいて飽きないどころか、もっともっと読みたい気持ちにさせられる。
 たとえばこんなくだり。
 「夕方になると、水平線がゆがみはじめた。……(略)断続的にゆがむことを繰りかえし、日没の直前に、一瞬消えた。」
 その景色、見てみたいものである。
 山口マオ氏のイラストも文章の雰囲気に合っていてまた良い。
85点

パレード

川上弘美(平凡社)

 川上氏の作品「センセイの鞄」に登場するツキコとセンセイ。
 二人のとある一日……そうめんを食べて、昼寝をし、ツキコさんは幼い日の思い出を語り始める。

 なんていとおしい一冊なのだろう。この個性的な装丁。短いけれど、ひと言ひと言がうっすらと光っているような言葉たち。
 大好きな作品の、こんなエピソードを読むことができ、筆者にお礼が言いたくなるような一冊であった。
95点

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