伊坂幸太郎(集英社)
小惑星が衝突して、地球は滅亡する。タイムリミットはあと三年。残された日々を懸命に、あるいは仕方なく生きる人々を描いた短編集。
『太陽のシール』に登場する土屋のエピソードが良かった。七歳になる子どもは重い病気を患っていて、自分が逝ったあとのことが心配だった。でも地球が滅亡すると聞いて気が楽になった、という話。
人類が全員、例外なく一緒に死ぬということは、とてつもなく恐ろしいことではある。が、いっぽうで「残される人」がいないということが、心を軽くする作用もあるようだ。
この作品を読んで、「自分だったら?」と考えた。あと三年で地球ごと消滅するとしたら? 呆然として何もできなくなるような気がする。毎日を無為に過ごし、ただただ「地球が滅びませんように」とバカみたいに祈るだけの日々になりそうだ。
70点
小惑星が衝突して、地球は滅亡する。タイムリミットはあと三年。残された日々を懸命に、あるいは仕方なく生きる人々を描いた短編集。
『太陽のシール』に登場する土屋のエピソードが良かった。七歳になる子どもは重い病気を患っていて、自分が逝ったあとのことが心配だった。でも地球が滅亡すると聞いて気が楽になった、という話。
人類が全員、例外なく一緒に死ぬということは、とてつもなく恐ろしいことではある。が、いっぽうで「残される人」がいないということが、心を軽くする作用もあるようだ。
この作品を読んで、「自分だったら?」と考えた。あと三年で地球ごと消滅するとしたら? 呆然として何もできなくなるような気がする。毎日を無為に過ごし、ただただ「地球が滅びませんように」とバカみたいに祈るだけの日々になりそうだ。
70点
PR
伊坂幸太郎(双葉社)
星野一彦は二股ならぬ五股をかけていた。そして今、その五人と別れることを、繭美という女に強要されている。彼女は二週間後、一彦をあるバスに乗せるための監視役なのだった……。
五通りの別れは、それぞれに個性的でとても面白く読めた。
そして何といっても物語の中心は、繭美という強烈な女性だ。彼女が物語を引っ掻き回すのが小気味良いったらない。180cm、180Kg、嫌いな言葉は塗りつぶしてある辞書を振りかざす彼女は、本当に異星人のよう。
書き下ろしだという最終章が、特に良かった。
以下、既読のかたにだけ分かる話で申し訳ない。
何度「キックする」と書かれたか、思わず数えませんでしたか?
90点
星野一彦は二股ならぬ五股をかけていた。そして今、その五人と別れることを、繭美という女に強要されている。彼女は二週間後、一彦をあるバスに乗せるための監視役なのだった……。
五通りの別れは、それぞれに個性的でとても面白く読めた。
そして何といっても物語の中心は、繭美という強烈な女性だ。彼女が物語を引っ掻き回すのが小気味良いったらない。180cm、180Kg、嫌いな言葉は塗りつぶしてある辞書を振りかざす彼女は、本当に異星人のよう。
書き下ろしだという最終章が、特に良かった。
以下、既読のかたにだけ分かる話で申し訳ない。
何度「キックする」と書かれたか、思わず数えませんでしたか?
90点
伊坂幸太郎(新潮社)
大学生である五人の男女を中心に織り成される、友情、恋愛、事件、そして事故……。
大学生が主人公という設定でまず身構えた。目を背けたくなるような青臭い行動、現実味のないクサいセリフを読まされそう……が、五人は程よく大人で安堵した。
唯一「西嶋」だけは幼稚なところもあったが、憎めない性格というか得難い存在で、彼抜きにはこの小説の面白さは語れないであろう。
世界平和を願って麻雀で「平和(ピンフというらしい)」という役ばかり狙ってみたり。「今そこにある危機」を救うため、動物保護センターから犬をもらってみたり。
行動は突飛だが、彼なりの筋道は通っている。面倒くさいけど正しい存在……西嶋、これからも頑張れ、と言いたくなった。
他の四人も、美しすぎる東堂、念力使いの南、中庸な役どころの北村、お調子者の鳥井、と多彩で、数々のエピソードは具体性を帯び、映像となって目の前に現れるようだった。
90点
大学生である五人の男女を中心に織り成される、友情、恋愛、事件、そして事故……。
大学生が主人公という設定でまず身構えた。目を背けたくなるような青臭い行動、現実味のないクサいセリフを読まされそう……が、五人は程よく大人で安堵した。
唯一「西嶋」だけは幼稚なところもあったが、憎めない性格というか得難い存在で、彼抜きにはこの小説の面白さは語れないであろう。
世界平和を願って麻雀で「平和(ピンフというらしい)」という役ばかり狙ってみたり。「今そこにある危機」を救うため、動物保護センターから犬をもらってみたり。
行動は突飛だが、彼なりの筋道は通っている。面倒くさいけど正しい存在……西嶋、これからも頑張れ、と言いたくなった。
他の四人も、美しすぎる東堂、念力使いの南、中庸な役どころの北村、お調子者の鳥井、と多彩で、数々のエピソードは具体性を帯び、映像となって目の前に現れるようだった。
90点
伊坂幸太郎(講談社)
ごく普通のサラリーマン・安藤は、あるとき自分の特殊な能力に気付く。自分が思った言葉を他人にしゃべらせることが出来る、腹話術のような能力。彼はそれであることに挑戦しようとするが……。
のっけから選挙や政治の話が出てきて、これはつまらない本かも……と思ったらとんでもなかった。面白過ぎて、読了してすぐ続編ともいうべき『モダンタイムス』をポチったほどだ。
まず危惧した政治の話が、ことのほか良かった。カリスマ性を持った政治家の術中に、まんまとはまっていく民衆。何かがおかしいと、流れに抗おうとする安藤。彼の弟もまた深く静かに行動し始める。
この作品が書かれたのは、あの小泉首相が誕生した日よりも前らしい。当時の日本は小泉劇場に魅了されていた。まさにこの作品にそっくりだった。その危険性を改めて感じさせられた。
95点
ごく普通のサラリーマン・安藤は、あるとき自分の特殊な能力に気付く。自分が思った言葉を他人にしゃべらせることが出来る、腹話術のような能力。彼はそれであることに挑戦しようとするが……。
のっけから選挙や政治の話が出てきて、これはつまらない本かも……と思ったらとんでもなかった。面白過ぎて、読了してすぐ続編ともいうべき『モダンタイムス』をポチったほどだ。
まず危惧した政治の話が、ことのほか良かった。カリスマ性を持った政治家の術中に、まんまとはまっていく民衆。何かがおかしいと、流れに抗おうとする安藤。彼の弟もまた深く静かに行動し始める。
この作品が書かれたのは、あの小泉首相が誕生した日よりも前らしい。当時の日本は小泉劇場に魅了されていた。まさにこの作品にそっくりだった。その危険性を改めて感じさせられた。
95点
伊坂幸太郎(講談社)
SEである渡辺は、ある出会い系サイトの仕様変更をすることになる。その仕事をしていた先輩は逃げ、客先とは連絡がとれない、と奇妙なことが続く。やがて渡辺はあることに気付く。その出会い系サイトは、複数のキーワードでたどり着いた人間を見張っているらしい……。
ソフト会社の悲哀がこれでもかと書かれていて、内輪ネタっぽいがウケた。この納期は不可能だと上司に食ってかかる部下、工夫で乗り切れとのたまう上司。まさに業界あるある。
閑話休題。
「そういうシステム」という言葉が繰り返し出てくる。政治が動く。独裁者が現れる。人々が熱狂し、やがて醒める。それらは誰かが画策しているわけでない、そういうシステムなのだ、と。確かにそうかもしれない。どんな権力者だとて「駒」に過ぎず、世界は勝手に移ろいゆく。この作品にある言葉を借りるなら、そこに見いだせるのは虚無しかない。
だから主人公たちは目の前にある問題から解いていく。小さなことからコツコツと(これも誰かの言葉だ)。
虚しいと言って背を向ける前に、人には為すべきことがある。そんなメッセージをこの作品から感じとった。
80点
SEである渡辺は、ある出会い系サイトの仕様変更をすることになる。その仕事をしていた先輩は逃げ、客先とは連絡がとれない、と奇妙なことが続く。やがて渡辺はあることに気付く。その出会い系サイトは、複数のキーワードでたどり着いた人間を見張っているらしい……。
ソフト会社の悲哀がこれでもかと書かれていて、内輪ネタっぽいがウケた。この納期は不可能だと上司に食ってかかる部下、工夫で乗り切れとのたまう上司。まさに業界あるある。
閑話休題。
「そういうシステム」という言葉が繰り返し出てくる。政治が動く。独裁者が現れる。人々が熱狂し、やがて醒める。それらは誰かが画策しているわけでない、そういうシステムなのだ、と。確かにそうかもしれない。どんな権力者だとて「駒」に過ぎず、世界は勝手に移ろいゆく。この作品にある言葉を借りるなら、そこに見いだせるのは虚無しかない。
だから主人公たちは目の前にある問題から解いていく。小さなことからコツコツと(これも誰かの言葉だ)。
虚しいと言って背を向ける前に、人には為すべきことがある。そんなメッセージをこの作品から感じとった。
80点