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青い壺

有吉佐和子(文藝春秋)

名もない陶芸家・省造。彼が偶然作り上げた青い壺は見事な仕上がりとなったが、道具屋の安原は「古色(薬品を使って骨董品のように見せかける技術)を付けてほしい」と無情な注文を付ける。
その後省造が手放した壺は、いろいろな人の手に渡る。ついには省造は意外な人物からその壺を見せられて……。

うまいなあ、有吉氏。
美しい壺は場面場面で人目を惹くが、シンプルな形のわりには挿す花を引き立てるわけでもない、と。
その気難しい壺の周りで繰り広げられる人間模様。
特に「おお!」と思ったのは寅三、千枝夫婦の話。
定年退職して毎日家にいるようになった寅三。千枝は
「ガスに火をつけることさえできない役立たず」
「(朝から大食漢の夫を)馬鹿の三杯飯というけれど働きもしないのにどうしてこんなに食べるのか」
「こんなに魅力のない男とよくも50年も連れ添ったものだ」
と手厳しい(けどスカッとする)。

ラストの展開もたまげた。
なんでも鑑定団だって、こういうことあるかもねと思わされました。
100点

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鬼怒川

有吉佐和子(新潮社)

 鬼怒川沿いの結城で育ったチヨ。紬を織る腕をかわれて、日露戦争で生還を果たした強運の男性と結婚することになる。舅も姑も優しい人たちで、チヨは極貧の実家よりも婚家のほうが居心地が良いほどであった。しかし肝心の夫は怠け者で、やがて彼は埋蔵金伝説にうつつをぬかすようになる……。

 幼いチヨが妻、母、姑になるまでを描いた一代記である。と言っても文章は簡潔にしてリズミカル、なので冗長ではない。この感じ、松本清張に似ているかも。
 リズムを作る一翼を担っているのが方言だ。私にとっては耳になじんだ茨城弁が、チヨの心情をいきいきと描く。

 ただ、ラストが良くない。懸命に生きたチヨの生涯がこんな終わり方をするとは……あまりといえばあまりではないか。
80点

しあわせの書

泡坂妻夫(新潮社)

 新興宗教である惟霊講会は、信徒180万人を抱える巨大な団体。教祖である桂葉華聖は、自分の後継者を誰にするかで悩んでいた。
 2人の候補者の思惑が錯綜するなか、ひょんなことからヨギ ガンジー(あやしげな探偵)と弟子たちが、その跡目騒動に巻き込まれてゆく……。

 昔、筆者の「生者と死者」という作品を読んで、そのときも度肝をぬかれたが、この作品も甲乙つけがたいすごい仕掛けが施されている。こんな本は、世界にこれ一冊かもしれない。そう思うと(変な言い方になるが)筆者の懸命な遊び心には感服するばかりだ。
 非常に楽しませてもらった、が身近に筆者のような人がいたら、その粘り強さは何かと面倒くさそうではある。
75点

女王国の城

有栖川有栖(東京創元社)

 信州の神倉という街は、新興宗教「人類協会」の聖地であった。英都大学の推理小説研究会部長である江神は、その街へ行ったらしい。なかなか戻らない彼を心配して、研究会の仲間四人が神倉へ乗り込むが、そこで思わぬ殺人事件に遭遇し……。

 本を手にした瞬間その厚さと重さに驚き、果たしてこんな長編を飽きずに読み通せるのかと思ったが、まったくの杞憂であった。
 何やら秘密を抱えているらしい宗教団体。「城」に幽閉されてしまった研究会のメンバーの目前で、次々に巻き起こる事件。テンポ良く進むストーリーに釘付けとなった。
 犯人は、キャラクター的に少し弱い気もしたが、動機は意外性があって良かった。読了後、彼が自らの生い立ちを語るシーンを探しに探してしまった。

 この作品に掲載されている「城」の図面は、私淑する建築家の安井俊夫氏によるものです。「城」を具体的にイメージできて助かりました。
85点

密室入門!

有栖川有栖・安井俊夫(メディアファクトリー)

 ミステリ作家の有栖川有栖氏と、一級建築士の安井俊夫氏が、密室について熱く語り合った一冊。

 密室は何ぞや? どのようにそれは分類できるのか? 建築的な見地からひもとく密室とは? 等々、密室についての疑問を次々に解き明かしてゆく会話は痛快無比。まさに痒いところに手が届きまくった作品といえよう。
 時にお二人の会話は脱線してゆくのだが、それがまた面白い。余談や薀蓄が、本文と同じくらい興味深かった。
 巻末にはお二人オススメの密室モノが三冊ずつ挙げられている。食指を動かされる作品ぞろいで、どれも読んだことが無い私はわくわくしてしまった。
採点なし

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