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津軽

太宰治(新潮社)

 津軽を旅した太宰の紀行文。
 郷土の歴史についての記述は冗長で退屈だったが、友人、知人との再会の描写などは、いかにも楽しげに生き生きと書かれていた。
 彼があちこちで酒に執着する様子なども、茶目っ気たっぷりに描かれており、その一喜一憂ぶりに苦笑してしまった。

 そして、この作品の主題は、なんといっても彼の育ての親「たけ」との再会であろう。その部分を書きたいが為に、彼はこの作品を書いたのではないかと思わせるくらい、再会のシーンが素晴らしかった。
 ぎこちなく喜びを表現する「たけ」、心から寛いで、母親の無心の愛もかくや、と思いを馳せる太宰。二人のやり取りには、肉親同士に勝るとも劣らない優しさが溢れていた。
75点
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東京日記2 ほかに踊りを知らない。

川上弘美(平凡社)

 エッセイ集。「卵一個ぶんのお祝い。」の続編。
 やっぱり、いちいち、隅ずみまで面白い。いくらでもこの日記を続けてライフワークとして欲しい、ほどである。

 本屋さんでじっくり本のタイトルを眺めていたら、目の前がぐらぐらしてきた、本の背表紙に酔ったらしい、とか。
 電車の中で桜餅の匂いがした、さらに水たまりの匂いもした、春先はときどき、こういう「匂う日」がある、とか。
 あぁ、あるある、と思わず頷いてしまうことがたくさん書かれていて、うれしくて、私も踊りだしたくなってしまった。というのは嘘だけど。
100点

文豪ナビ 太宰治

新潮社

 要約された作品や評伝で、太宰の魅力に迫る一冊。
 イラストあり、今風な巻頭カラー写真ありで、かなりくだけた雰囲気の一冊である。

 私は太宰のファンだが、今まで小難しい評伝は読む気になれなかった。が、これはそのあたりも分かりやすく、楽しく書かれていて良かった。
 重松清・田口ランディ両氏による、エッセイも興味深かった。私も田口氏のように、太宰治の文庫本を、片っ端から再読したくなった。
85点

グッド・バイ

太宰治(新潮社)

 太宰の絶筆「グッド・バイ」。
 既婚者でありながら、複数の女性と付き合っている男、田島。すべてを清算すべく、彼は一計を案じた。
 外見は申し分なく美しいキヌ子という女性を妻だと偽り、女達に自分を諦めさせようとしたのだ。
 彼の作戦は成功するかに思えたが……。

 軽妙な語り口に引き込まれた。田島の性格描写もユーモアたっぷりで、作者が自殺の直前にこれを書いたとはとても思えない文章である。
 でも田島のいんちきぶりを、あざ笑うかのような書き方は「実際、こんな人間ばかりだ」という作者の厭世観を表しているような気がした。
 その他、疎開先に向かう電車の中で食べ物を譲ってくれた人に、にくしみをこめて御礼が言いたいという短編「たずねびと」。
 そうまでして生きて行かなくてはならないのか? という疑問が、読んでる側にも生じてくるような作品である。
85点

川上弘美読本

青土社

 芸術総合誌「ユリイカ」の臨時増刊号(2003年9月)。
 作家たちによる作品評、川上氏自身による短編、対談などが収められていて、ファンにとっては堪らない一冊である。
 特に対談では、今まで知らなかった「素」の川上氏の言動というものに触れることができて、とてもうれしかった。川上氏、意外にしっかりしたかたのようだ。

 作品評では、歌人・東直子氏による「パレード」評が良かった。
 「すべての登場人物がしみじみしている。強気で傲慢で上昇志向な脂ぎった人は、いない。……(略)しかしまっとうな精神に裏打ちされて、ちゃんと自立して生きている人々ばかりである」
 まさに、その通りだと思った。作品と同じくらい素敵な書評だと思った。
80点

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