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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(新潮社)

 エッセイ集。
 「あるようなないような」もかなり楽しめたが、このエッセイもまた、非常に面白かった。

 今回は、川上氏と私の共通点が判明した『わからないことなど』が、特に興味深かった。  「体が大きい。大女なのである。」で始まるこのエッセイ、あぁ分かる分かる、と貪り読んでしまった。標準から外れているという、ちょっと切なくてもやもやした感情を、うまく表現してくれている。
 さらに、随所に川上氏の読まれた本の感想が書かれている。それがまたとてつもなく面白そうだから困ってしまう。
 イタロ・カルヴィーノ「柔らかい月」、久世光彦「桃」あたりはいつか必ず読むぞ、と心に決めた。
95点
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辺見庸(角川書店)

 私「今地球上に人間ってどれくらいいるの?10億くらい?」
 ダンナ「はあぁ?中国だけでも10億以上いるよ。全部で60億くらいじゃない」
 そんなにいる中で、毎日充分な食事が摂れているのは……八割くらい? もっと少ない? 切なくなってくる。

 筆者は世界中を飛び回って人々がいかに「食べているか」を見て、体験してきた。
 残飯を売る人、食べる人、チェルノブイリに暮らし、そこで採れた作物を食べる人、刑務所の食事……壮絶な世界である。
 そんな悲惨な話のなかで私がほっとしたのは「観覧車での食事」。ゆっくりとしずしずと廻り続ける観覧車のなかで食事する……観覧車酔いするらしい。ちょっとやってみたい。
70点
小川洋子(新潮社)

 優れた数学者でありながら、記憶が八十分しかもたないという、博士。その家に派遣された家政婦の、私。その息子で十歳の、ルート(本名は別にあるのだが、博士がその平らな頭を触ったときにルートと名付けた)。
 三人で過ごす、温かで濃い時間を描く。

 また素晴らしい作品に出会ってしまった。風変わりな設定が、これ以上ないほどに生かされたストーリーである。
 博士が説明する数式の美しさは、たとえ私のような数学嫌いにでも、魔法のように魅力的に響いた。素数とは? 完全数とは? 友愛数とは? それらがまるで芸術作品さながらに、博士の口から語られる。
 それから「小さきものを守らねばならぬ」という博士の揺るぎない確信に、胸を打たれた。ルートを思いやる心は、純粋で清らかだ。
95点
保坂和志(新潮社)

 墓地で拾った子猫が、病気を乗り越えて生きる姿を描いた「生きる歓び」、小説家・田中小実昌との交流を描いた「小実昌さんのこと」の二編が収められている。

 後者の作品に、興味深い表現があった。「ダラダラ書く作家」という一節だ。その例として小島信夫、田中小実昌、後藤明生の名前が挙がっていた。昨日の続きの今日、といった日常を、さらりと書く作家というのが確かにいる。
 そんな世界は退屈なことが多いのだが、読むほうもダラダラと気ままに読むと、案外楽しんで読むことができることもある。この二編も、まさにそんな作品であった。
60点
小川洋子(角川書店)

 七つの連作短編集。
 それぞれ関連があるような無いような、微妙なストーリーである。
 徹底的に現実的な描写と、ふわっと浮いてるような非現実的な描写が入り混じり、独特の世界が展開されている。

 私が気に入ったのは「キリコさんの失敗」。
 十一歳の「私」の家にいた、お手伝いさんの「キリコ」さん。失くした物を、魔法のように取り戻してくれるキリコさん。
 子供の頃に感じた「大人ってすごい」という素直な驚きを具現化したような人物像である。
80点
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