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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(マガジンハウス)

 短編集。
 「コーヒーメーカー」が良かった。
 恋人である中林さんに、会いたくて仕方がない杏子の一週間。本の帯にも書かれている一節が、とても印象深かった。
 『あいたいよ。あいたいよ。二回、言ってみる。それからもう一回。あいたいよ。』
 簡潔に、ただただ簡潔に心情を述べているだけっぽいのに、この切なさはどうだろう。
 言葉を飾らなくても心に響く文章は書ける、ということの見本のような一節ではないだろうか。

 他に、その後の杏子を描いたと思われる「山羊のいる草原」も良かった。人の心の移ろいを、静かに丁寧に描いていて、良かった。
80点
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吉永達彦(角川書店)

 小学生の真理は大阪・古川のほとりに住んでいた。ある嵐の日に真理の家に亡霊が現れる。それは三年前に水死した、妹のマユミだった……。

 川の中に存在する異界での死闘が、とても生々しく描かれていて凄みがあった。現世に強烈な怨念を抱くマユミが、悪鬼のごとく振舞うさまは恐ろしくも悲しい。
 ひとつ難点を挙げるとするなら、水子やへその緒といった事柄にこだわり過ぎているように感じられたこと、か。
65点
吉野源三郎(岩波書店)

 中学一年生のコペル君の体験をとおして、人生いかに生きるべきか、モラルとは? 社会認識とは? 等々を問う作品。
 こういう本を良書というのだろう。分かりやすい、面白い、飽きさせない、そして(陳腐な言い方だが)為になる。

 誰もが中学生のときに体験するようなエピソードがたくさん出てくる。
 たとえば友人がリンチを受けているのを傍観してしまうシーン。コペル君の後悔が痛いほど伝わってくる。
 そこで彼の叔父は言うのだ、「どんなにつらいことでも、自分のしたことから生じた結果なら、男らしく耐え忍ぶ覚悟をしなくっちゃいけないんだよ」。責任転嫁ばかりする人間が増えている今、叔父さんの言葉が重く響く。

 それから、貧しい暮らしをしている友人・浦川君について、叔父さんは言う。「君が、浦川君のうちの貧乏だということに対して、微塵も侮る心持をもっていないいうことは、僕にはどんなにうれしいか知れない」。コペル君はたまたま恵まれた環境にいるが、浦川君のように「生産する人々」がいるからこそ、社会は成り立っている。彼らを敬いこそすれ、決して見下してはいけないと叔父さんは繰り返す。

 まだまだ紹介したい良い話があるのだが、きりがないのでこのへんで。とにかくこの題名でもって敬遠することなく……小難しい哲学書かと思い、私は手に取るまでに時間が掛かった……学生の方にも大人にも読んでいただきたい一冊である。
95点
川上弘美(中央公論新社)

 結婚して二年ほど経った35歳のリリ。彼女は夜の公園で知り合った暁と、なんとなく関係を結ぶ。
 リリの夫・幸夫。彼はリリの友人である春名と不倫関係にある。
 その春名は、幸夫の他にも男性がいる。7歳年下の悟。暁と悟は兄弟であった……。

 粗筋を書いて気付いた。これじゃあまるで三流小説じゃないか。
 しかし作品を読んでいるときは、その圧倒的な「さりげなさ」に飲み込まれて、卑猥さも陳腐さもさほど感じなかった。主人公のリリが、あまりにも私好みの女性だからかもしれない。
 夫を好きではなくなった自分を客観視できるリリ。不思議な清潔さを身に纏っているリリ。一人でいるのが似合うリリ。
 決して損なわれることのない彼女の気品がストーリーの中枢に在って、全体を引き締めている。

 春名もまた、この作品に欠くことのできない存在であろう。
 リリと対極にある彼女は、とてもなまめかしくて刹那的だ。自分を「あたし」と呼ぶ春名。その下品な感じが、彼女らしくていい。
85点
吉村昭(新潮社)

 戦犯を収容していた「巣鴨プリズン」。鶴岡は、そこで刑務官として働いていた。
 戦勝国による裁判で囚人となった日本人を、日本人が警備する、という世界でも例を見ない特殊な状況下にあった場所。
 鶴岡ら刑務官には銃の携帯が義務付けられていて、囚人に「それで我々を撃つのか」と訊かれるシーンなど、彼らのとまどいが良く理解できる部分である。

 史実と虚構が入り混じっているというが、昭和三十年代までこのような施設があったことは事実だそうだ。
 戦後というイメージからも離れていた時代。だが、巣鴨プリズンの中だけは戦後を引きずっていたのである。
 そこで無為な時間を過ごさざるを得なかった人々の苦悩は、深い。
70点
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