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ラストシネマ

辻内智貴(光文社)

 若かりし頃、映画俳優を夢見て街を出た雄さん。病に侵されて東京から舞い戻った彼に、小学生の哲太は惹かれるものを感じる。
 雄さんは、一度だけ端役で映画に出たことがあると聞き、哲太はその映画を必死に探し出すが……。

 ひとつの終わりかけの命があって、その今わの際に、周囲の人々がとびきりの思い出を作ってあげようと奮闘する姿が泣かせる。
 言ってしまえば、冴えない人生を送った雄さん。だがそんな雄さんが、全てを注ぎ込んだ一瞬を、哲太少年は我がことのように大切に思う。その優しさが心に響いた。
 他の登場人物も魅力的なのだが、特に哲太の父親が、強くて優しくて破天荒で、良い味を出している。
80点
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対岸の彼女

角田光代(文藝春秋社)

 平凡な主婦である小夜子は、葵という同い年の女性社長の下で働くことになった。仕事は掃除の代行。小夜子は次第に仕事にやりがいを感じ始めるのだった。
 並行して語られるのは、葵の高校時代。ナナコという、一風変わった子と友達になった葵。ポジティブで人懐こくて、でも決して群れないナナコに葵は惹かれるが……。

 くだらない話だと思いながら、貪るように読んでしまった。物語の中のあれもこれも、自分が経験したことだからかもしれない。
 学生時代の、息が詰まるような友達関係。群れない人間に注がれる奇異の目。母となっても終わらないお友達ごっこ。
 葵とナナコのように、本当に気の合う友人が一人いれば充分なのである。何も恐れることはない……そう学生時代の自分に言ってやりたい、遅すぎるけど。

 この作品については、とても読みやすくて良かった。が、小夜子の設定があまりにも安易な気がした。
 仕事に無理解な夫。嫌味な姑。分かりやすいパート主婦像だが、工夫が無いなと思った。
75点

機嫌のいい犬

川上弘美(集英社)

 筆者初の句集。俳句220句が収められている。
 小説ではなくても、やっぱり川上氏は川上氏なのだなぁと妙に納得させられた。
 たとえばこんな句。

 「マーブルチョコ 舐めて色とる日永かな」

 彼女らしい、彼女にしか作れない一句だと思った。

 しかしながら、俳句としての出来はどうよ? と問われれば、非常に言いづらいが素人の域を出ていないものが多数あったように思う。
 愉快だけど、しゃれてるけど、ただのつぶやきと言えば言えなくも無い……人には薦めづらい一冊。
60点

キッドナップ・ツアー

角田光代(新潮社)

 夏休みの始まった日。小学5年生のハルは、実の父親に誘拐され、一緒に旅することになった。かっこ悪くて、段取りも悪いおとうさんとの旅は、苦しくて楽しい旅だった……。

 とても感想が書きづらい。なぜなら解説者の重松清氏が、この作品の光る部分を、さらに磨きをかけて書いてしまっているからである。さすがは作家である。
 で、私が感じた印象をひとつだけ書くなら。
 きっとこの父親が実際にいたとしたら、ごく普通のおじさんなような気がする。でも子供の目から見るとイケてなくて、とても素直にはなれなくて、でも憎めなくて。それはありがちな話で、あまり心に残る話ではないと思った。
55点

冷静と情熱のあいだ Blu

辻仁成(角川書店)

 美術絵画の修復士の順正。彼には忘れられない約束があった。八年前に別れた恋人あおいとの再会の約束。

 恋愛小説のサンプルのような小説である。男性には図抜けた才能があり、女性は儚げに美しく、そして舞台はフィレンツェ・ミラノ・東京。
 よくまあ臆面もなく、と思う。しかし、作者の筆力が題材の陳腐さを上回っているようだ。
 登場人物の誰にも感情移入できないし、展開も予想通り。それでも読後感が不快でないのは、あおいの愛され具合に多少は心惹かれるからか。
65点

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