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よしなしごとども 書きつくるなり
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太宰治(新潮社)

 太宰の絶筆「グッド・バイ」。
 既婚者でありながら、複数の女性と付き合っている男、田島。すべてを清算すべく、彼は一計を案じた。
 外見は申し分なく美しいキヌ子という女性を妻だと偽り、女達に自分を諦めさせようとしたのだ。
 彼の作戦は成功するかに思えたが……。

 軽妙な語り口に引き込まれた。田島の性格描写もユーモアたっぷりで、作者が自殺の直前にこれを書いたとはとても思えない文章である。
 でも田島のいんちきぶりを、あざ笑うかのような書き方は「実際、こんな人間ばかりだ」という作者の厭世観を表しているような気がした。
 その他、疎開先に向かう電車の中で食べ物を譲ってくれた人に、にくしみをこめて御礼が言いたいという短編「たずねびと」。
 そうまでして生きて行かなくてはならないのか? という疑問が、読んでる側にも生じてくるような作品である。
85点
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青土社

 芸術総合誌「ユリイカ」の臨時増刊号(2003年9月)。
 作家たちによる作品評、川上氏自身による短編、対談などが収められていて、ファンにとっては堪らない一冊である。
 特に対談では、今まで知らなかった「素」の川上氏の言動というものに触れることができて、とてもうれしかった。川上氏、意外にしっかりしたかたのようだ。

 作品評では、歌人・東直子氏による「パレード」評が良かった。
 「すべての登場人物がしみじみしている。強気で傲慢で上昇志向な脂ぎった人は、いない。……(略)しかしまっとうな精神に裏打ちされて、ちゃんと自立して生きている人々ばかりである」
 まさに、その通りだと思った。作品と同じくらい素敵な書評だと思った。
80点
太宰治(新潮社)

 八つの短編集。「トカトントン」を紹介しよう。
 主人公は郵便局に勤める二十六歳の男。平凡に生きてきた彼が、ある時から金槌で釘を打つような「トカトントン」という音に取り憑かれる。
 真剣に何かに取り組んでいるとき、何かに心から感動したとき、どこからともなくトカトントン。その刹那、すべては色褪せ、くだらなく思えてしまう。

 彼のように極端ではないにしろ、誰にでもこんな経験はあるのではないだろうか。ふっと我に返って「自分は一体何をしているのだろう」と疑問に思う瞬間が。
 他に「親友交歓」も皮肉たっぷりで面白く、特に最後の一行が奮っている。
90点
大沢在昌・京極夏彦・宮部みゆき(角川書店)

 大沢在昌、京極夏彦、宮部みゆきの三人がWeb上で書いた日記をまとめたのが本書。
 当たり前のことかもしれないが、性格も生活も三者三様、ばらばらであった。

 大沢氏はミステリー系の文学賞の選考委員を務めているらしく、その内幕なども少し書いてあって楽しめた。彼のゴルフ話は飽きたが。
 京極氏は意外にも(?)良き夫、良き父親であろうと、努力しているらしい。
 宮部氏は予想以上の「ゲーマー」であった。

 しかしながら、この三人。売れっ子だからかもしれないが、とにかくいろいろな人間と接触している。作家というのは孤独を愛する人ばかりではないのだなぁと、認識を新たにした。
55点
太宰治(新潮社)

 井原西鶴の作品を太宰流にアレンジした「新釈諸国噺」は、多数のショート・ショート。
 いわゆる「武士道」の理不尽さ加減、あるいはくだらないこだわりに、いちいち感嘆してしまった。こんな時代に生きた人達は、さぞかし大変だったろう。

 浦島太郎のパロディである「浦島」は、低俗すれすれの絶妙なバランス感覚が良い。
 ここに出てくる亀は雄弁で、小心者の浦島をこきおろしたりして痛快である。また竜宮城の在り方も、太宰が考える「真の幸福」論を垣間見ることができるようで興味深い。
90点
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