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よしなしごとども 書きつくるなり
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金井美恵子(河出書房新社)

 小説家のおばさんの家に居候する、大学生の桃子。父親は同性愛者だし、友人の花子は自分のことを「おれ」なんて言うし、大学へは何となく行きたくないし……気ままに過ごす、彼女の日常を描く。

 長いセンテンスが少し鬱陶しいが、桃子のだらりとした気分を表現するには、効果的だ。
 とにかく彼女は生意気で、小賢しくて、強い。誰にも調子を合わせず、気に入った子とだけ付き合う。彼女のような強さが自分にもあったら、私もこんな学生になりたかった。
 私は文庫版で読んだが、装丁や、特別な活字も内容に合っている。それから三島由紀夫の「女神」の話が出てくるのだが、私も印象に残っている場面の話だったので、うれしくなってしまった。
85点
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7人の特別講義プロジェクト&モーニング編集部(講談社)

 「なぜ学び、なにを学ぶのか」に、七人の講師が答える。16歳の「君」へのメッセージ……。

 まず「国語」が面白かった。講師は金田一秀穂氏。情緒を切り捨てて、事実と論理だけで文章を組み立てるトレーニングをしよう、という話。
 うれしい、美しい、さびしい、ウザい、等々の「印象」は不要、自分の気持ち以外のものを言葉にしようと氏は語る。ついごてごてと言葉を装飾したくなる自分にとっても、目からウロコな話であった。

 逆に「?」だったのは「心理」。講師は石井裕之氏。
 環境(部屋や服装)を変えて、潜在意識に「成功するに決まっている」と勘違いさせる、という話。潜在意識ってそんなに馬鹿なのか? という疑問が拭えなかった。
70点
太宰治(新潮社)

 初期作品集。15歳の「津島修治」が書いた作品まで収録してあり、ファンにとってはたまらない一冊となっている。

 『律子と貞子』という短編は、読者へ問い掛けるような形で終わっている。そのせいか、読了後も様々なことを考えさせられた。
 粗筋は、三浦という男性が律子と貞子という姉妹の、どちらと結婚したら良いのか迷っている、というもの。相談を持ちかけられた「私」は、聖書の一説を三浦に語る。
 イエスがある村に来たとき、マリアはその足元に座ってただ話を聞く。マルタはもてなしのために忙しく立ち働く。マルタがイエスにそのことを訴えるも、イエスは『マリアは良いほうを選んだ』と諭すのだった……。
 聖書の解釈には二通りあるらしい。イエスは、御言葉を聞くマリアを誉めたという説と、奉仕するマルタを慰めたという説。
 三浦は結局、「私」が薦めたつもりだった妹(客を歓待し、あれこれと気を遣う貞子(=マルタ))を選ばなかった。それで「私」はひどく驚く。
 妻にするならかいがいしく自分の面倒をみてくれる女性が良いだろうと「私」、つまり太宰は考えたようだ。太宰のその後の人生を思うに付け、興味をそそられる話ではある。
85点
加納朋子(講談社)

 とびぬけて美しく、明るかった高校生の麻衣子が、通り魔によって殺害されてしまう。彼女のクラスメート、その親、先生が、事件の謎を解き明かしてゆく、連作短編集。

 各々の作品が微妙に重なり合い、まとまっていく展開がうまい。
 タイトルの「ガラスの麒麟」とは、麻衣子が書いていた小説のタイトルでもある。繊細で壊れやすい心を、ガラスでできた麒麟に見立てた小説。そんな解釈が繰り返し描かれている。
 だが、殺されてしまった麻衣子に鞭打つようだが、どうしても彼女には反感を覚えてしまう。
 両親が離婚しかかっているという悩みはあったかもしれないが、気まぐれに周囲の人間を振り回す彼女の生き方は肯定し難い。傷付き具合まで自分本位だと思えてしまった。
65点
川上弘美(集英社)

 結婚して七年ののゆりは、夫である卓哉に愛人がいることを知る。卓哉は離婚をほのめかすが、のゆりにはその決心がつかない。ずるずると時だけが過ぎてゆくのだった……。

 のゆりというのは、どこか鈍くて、そのことに自身甘えているようなところがあって、でも本人はきっと「甘えてなんかいません。」と断言するであろう、そんな女性なのである。こういう主人公は読んでいてつらい。イライラする。
 極め付けは、卓哉にプライドはないのかと詰め寄られるシーンだ。そのあとののゆりの行動はまったく理解できないし、もっといえば気持ち悪い。
 終盤で、のゆりは唐突に離婚を決意する。が、それも「自分が離婚を切り出せば逆に卓哉は別れられないに違いない」と踏んでの行動のような気もする。天然ボケならぬ天然計算女……それがのゆりの正体だと思った。
 だが、そこはそれ川上作品、興味をそそるエピソードが巧みに盛り込まれ、主人公に嫌気が差しつつも最後まで読みきることができた。
75点
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