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北村薫(新潮社)

 私は十七歳の女子高生。それがある日突然四十二歳になってしまった。時間を「スキップ」してしまったのだ。

 あり得ないことに現実感を持たせて書くのは、よほど上手くないと読んでいるほうは白けてしまう。
 そういう意味ではこの作品は成功しているほうだと思う。
 だが、好みでいうと、私の好きな作風ではない。この作者はいつもこうなのだろうか? 文章がブツッブツッと短い。短いのに読みづらい。読み進むリズムを乱す文章の切り方だと思った。
40点
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嗤う伊右衛門

京極夏彦(角川書店)

 同心・又左衛門の娘であるお岩は、気高く強い女性であった。彼女は疱瘡を患い、二目と見られぬほどに顔が崩れてしまったが、それを気に病むでもなく凛として生きていた。
 そんな彼女のもとへ、浪人・伊右衛門が婿入りすることとなった。結婚したふたりは、ぎこちなく日々の生活を営んでゆくが、次第に感情がすれ違い……。

 お馴染みの四谷怪談とは、だいぶ趣きが異なるストーリーである。伊右衛門は邪悪でも女好きでもなく、お岩も確固たる自我を持っている。ふたりは、同じように真っ直ぐで不器用なもの同士として描かれている。
 対して脇役陣は、腹に一物のある者ばかり。特に伊東喜兵衛という男は、血も涙もないまさに悪鬼のような人間で、彼が最後どのように描かれるのか、作家は彼を懲らしめてくれるのか、固唾を呑んで読んだ。
 終盤の「御行の又市」「嗤う伊右衛門」の章が素晴らしい。伊右衛門は嬉しい時はたいそう嬉しげに嗤うのだ……。
85点

覘き小平次

京極夏彦(中央公論新社)

 日がな一日、納戸に籠って一寸五分ばかりの隙間から覗き見をしている小平次。
 何の取柄もない彼だが、一つだけ幽霊芝居だけは他の追随を許さなかった。観るものを必ずやぞっとさせる彼の芝居。あるとき、その腕を買われて殺人犯を自白させるための企みに駆り出されるが……。

 普段、碌に口も利かない小平次が、訥々と自分の過去を語る「九化(くばけ)の治平」の章がいい。
 話の相手を務める治平はならず者で、舌先三寸で生きてきたような男だ。だが彼は小平次にいくつかの生き方の指針のようなものを与える。
 「本当の自分だとか真実の己だとか、そんなものに拘泥する奴は何より莫迦だ。そんなものァねえ」。
 確かにそうかもしれない。
85点

どすこい(安)

京極夏彦(集英社)

 世に名高きベストセラーの数々を「すべてがデブになる」にしちゃったのが本書。
 米俵のようにミトコンドリアが太っているという「パラサイト・デブ」。
 死人になってなぜか太り出した男たちの、悲哀を描いた「脂鬼」。
 などなど、タイトルからして人を喰っている。
 遊び心満載で、特に各タイトルページの裏にある、ホンモノの作家に宛てた一文は、冗談なのか本気なのかよく分からないが、とにかく面白い。
 また、最後に収録されている「ウロボロスの基礎代謝」は、夢の中で夢を見ているような設定で、頭がよじれそうだった。
80点

お月さん

桐江キミコ(小学館)

 十二の短編が収められているのだが、どれも味わい深くていい作品であった。
 一つ目の『お月さん』。
 無用にデカい、OLの桜子さん。ゾウアザラシみたいな桜子さん。部長に怒られてばかりの桜子さん。彼女が会社を辞めたとき、変わったことと変わらなかったこととは……。

 あまりに身につまされる話で、心がキリキリと痛んだ。ただ大柄というだけで、実際より鈍くさく思われたり、歩き方を「のっしのっし」なんて形容されたりするのだから堪らない。
 彼女は傷付けてもいい存在だと言わんばかりの語り手の残酷さに、ぞっとした。
 他に、女手一つで子どもを育てている、バーのマダムの話『薔薇の咲く家』も哀しい物語であった。幼稚園のママたちのひそひそ言い合う声が、行間から立ち上るようだった。
95点

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