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よしなしごとども 書きつくるなり
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谷崎潤一郎(新潮社)

 働きもせずにのらくらと毎日猫ばかり可愛がる庄造。彼の前妻の品子が、庄造の猫を引き取りたいと言い出し、後釜の福子にも責められて、ついに猫を手放すが……。

 たった一匹の猫に、庄造も品子も福子も翻弄される。はたから見ると滑稽この上ないのだが、当人は至ってクソまじめ。そこにこの作品の妙味がある。
 庄造がこそこそと猫の様子を見に行くラストは、あまりのばかばかしさに脱力したが、庄造の刹那主義を際立たせてもいる。
80点
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種村季弘(筑摩書房)

 ドイツ文学者・評論家である種村季弘氏の最後のエッセイ集。
 多種多様な話が収められている。長くて退屈な話もあったが、切れ味鋭い短い話もたくさんあった。

 たとえば「顔文一致」。平岡正明氏(評論家)が「レコードと違って本の表紙には何故著者の写真がデザインしてないのか。物書きには顔に自信があるやつがいないから」と書いたという。ただし例外がいる、自分と種村氏。自著のカヴァーに自影を載せている。顔にも文章にも自信がある、これを顔文一致という。これを聞いた種村氏、舞い上がるほど喜んだらしい。
 こんな茶目っ気のある軽い話は、読んでいてとても愉快であった。
65点
川上弘美(朝日新聞出版)

 さよと仄田くんはともに小学4年生。ふたりは図書館で見つけた『七夜(ななよ)物語』という本の世界に入り込む。巨大ねずみのいる世界、心地よくて、とても眠たくなる世界、さよが生まれる前の、若い頃の父と母がいる世界……ふたりは七つの夜を旅する。

 上巻の帯には「本格長編ファンタジー」と書かれている。それでどうしても「ハリー・ポッター」を思い出してしまう。あれに比べたら、この作品はなんて地味で慎ましやかなのだろう。でもそこがいい。小さな箱にきっちりと詰められた上質な和菓子のようで、とてもいい。

 そして下巻の帯には「児童文学の新たな金字塔」と書かれている。しかし著者は子どもが読むことを念頭に置いていないのではないだろうか。「とても」と書けばいいところを「たいそう」と、「きちんとした」と書けばいいところを「折り目正しい」と書いてある。大人の鑑賞に堪えうる、美しい日本語で書かれている。その選ばれし言葉たちを、私は存分に楽しんだ。
 手放しで「面白い!」とはいえない作品だが、静かに心を揺さぶる作品ではあった。
80点
開高健(文藝春秋社)

 この作品は筆者の絶筆である。でも私が嫌いな終わり方(未完)ではなくて安堵した。
 三つの短編が収められているが、私が好きなのは「掌のなかの海」。酒にまつわるエピソードが抜群。いかにもおいしそうな「フィッシュンチップス」。床にまかれたオガ屑の匂い。研ぎたてのナイフの刃のようなマーティニ。このあたりの描写は手馴れていて、安定感がある。
 ラストのアクアマリンの話も、評価が分かれる所かもしれないが、私は好き。女性的な「宝石」というものについて、胸がすくほど男性的に描いていて、好き。
70点
田村隆一(思潮社)

 新聞で紹介されていたので思わず手を出してしまったが、私には抽象的な「詩」を理解できる能力は、残念ながら無いらしい。
 というわけで併録されているエッセイについて書こうと思う。
 歯医者が怖くて行けない、という話。もし戦時中に敵につかまり、あの治療器具で拷問にかけられたらぼくはみんな喋ってしまいそうだ、と。
 自分の不甲斐なさをあっさり認めていて苦笑してしまった。

 夫婦で飛行機に乗ったときのこと。
 奥様いわく「(千歳から東京まで)たった一時間。……なんて日本って小さいんでしょ。よくアメリカなんかと戦争したもんだわ」。
 話の飛躍っぷりに、また苦笑を誘われた。
60点
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