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よしなしごとども 書きつくるなり
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天童荒太(文藝春秋社)

 日本中を旅する静人、その目的は死者を悼むことだった。彼の噂を聞いて近付く雑誌記者・蒔野。彼と偶然出会って、彼と行動を共にする女・倖世。それぞれの思いが交錯していく中、ガンに侵された静人の母・巡子のタイムリミットも刻々と迫る……。

 登場人物が誰も疎かにされることなく丁寧に描かれているところに、まず好感を覚えた。それは取りも直さず、静人の悼む姿勢にも通じるものがある。
 事故、自殺、他殺、どんな死に方をした人であっても、静人は自らの心に、彼らが確かに生きたということを刻もうとする。しかも、きっと誰かには愛された、きっと誰かには感謝された、そういうプラス面だけを見ようとするのだ。

 物語を読みながら、私も蒔野や倖世のように、静人の行動を訝しんだり、偽善の感情を探し出そうとしたりした。しかし読み進むうちに彼の、「亡くなった人を、他の人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたい」という厳粛な想いに偽りは無いのだと判った。
 誰かもその詩の中で書いたではないか、「死んだ女よりもっと哀れなのは忘れられた女です」と。彼の悼みは、死者が最も欲しているものなのかもしれない。
 どんなに冷酷無比な人間でも、一度は蜘蛛を助けたかもしれない……悼むことに値しない人間などいない……そんなことも、ふと思った。
95点
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