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よしなしごとども 書きつくるなり
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森博嗣(講談社)

 単純に、ただ面白かった、では済まされない作品らしい。いろんな趣味嗜好の人々の琴線に、あるいは逆鱗に触れてしまう作品のようだ。
 「ガンダム系」という表現が出てくる。それから、頭脳明晰、美人でしかもお嬢様の萌絵。そして、タイトル、本文中に散りばめられたコンピュータ用語。
 「鼻につく」という方もいるだろう。「好き。ハマる」という方もいるだろう。私はどちらでもないが、ひとこと言うなら「よくできてるな」であった。
75点
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村田喜代子(朝日新聞出版)

 文章を書くのは難しい。自分の書いたものは、どこかヘンな気がする、具体的に説明できないけれど、どこかが。そんな私のための、貴方のための一冊。
 「あ! そういうことか!」と思わず膝を打つようなことがたくさん書かれていた。

 まず『そろーりと始めよう』。エッセイの書き出しで、いきなり情報過多にしないこと。
 「昨年の五月十五日、十坪ほどの家の庭で、隣の佐藤さんから譲り受けた深紅のバラが三十輪も一斉に咲いた。」
 これは良くない。読者がついていけなくなる。

 それから、女性の文章に多いという「~とのこと」。
 「娘に給食の献立をきくと、カレーが出たとのことだった。」
 読んでいていかにも舌足らずな感じがする。言葉をはしょらずに書くと
 「娘に給食の献立をきくと、カレーが出たと教えてくれた。」
 となる。
 文章が明確になり、座りがよくなった。
 こんなふうにちょっとしたことだけれど大事なことが、この本には詰まっている。
80点
森まゆみ(講談社)

 1954年に生まれた筆者が、移ろい行く「東京」を、自分の生活に絡めて描いたエッセイ。
 私より少し上の世代だが、幼い日に見たこと、したことは結構共通することがある。紙製の着せ替え人形、コンクリート製のごみ箱……ノスタルジイを感じる。
 ただ附属高、早大(東大は二次で落ちた)と進んでいくあたりは、自分の賢さをひけらかさないように、そーっと書いている感じがした。
 「なんだ、苦労知らずのお嬢様かい」って思われたくないのか……なんて邪推かしら。
55点
村田喜代子(文藝春秋社)

 文庫本に「傑作短編集」と書かれているが、看板に偽りなしであった。
 日常の中で見落としてしまうであろう「ちょっと変」をあぶり出すのが、筆者は上手だ。

 封筒ののりしろを舐めて「こんなこと、好き」という男。
 入院中の有沢さんは、毎日医師に思い出話をしに行くが、前日話したことは忘れている。
 「もうすぐ死ぬ」と40年近く言い続けて死んだ、90歳の祖母。

 少しのズレが、おかしみを、あるいは怖さを生む。その最たる作品が「茸類」。
 美枝の従妹・康江は椎茸農家だが、収穫時期にケガをしてしまい、美枝が助っ人に借り出される。
 マムシが出るという草むら。死んだ木にしか育たないキノコ。匕首のように鋭く澄んだ焼酎……。何かを暗示するような言葉が続き、最後に禍々しい事実が明らかとなる。
 人が、ふっと常軌を逸する瞬間が、鮮やかに描かれている。
75点
森見登美彦(祥伝社)

 『走れメロス』他四編が収められた短編集。

 『藪の中』が一番良かった。芥川龍之介の作品を、現代ふうにアレンジしたもの。
 筆者いわく、原典の「木に縛り付けられて傍観するしかなかった夫の苦悩」に惹かれたのだそうだ。
 「夫」は、森見版でいうと「鵜山」にあたると思われるが、彼は苦悩するどころか、傍観者という立場をむしろ楽しんでいる。燃えるような嫉妬心に身をゆだね、自虐的なふるまいでもって自分の存在を確認していくのが彼流なのだ。
 原典の、切った張ったの激しさこそないものの、恋愛感情の中に潜む残酷性をうまく捉えた作品であると思った。
70点
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