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よしなしごとども 書きつくるなり
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殊能将之(講談社)

 若い女性が次々に殺される。死体の喉にはハサミが突き刺さっていたため、犯人は「ハサミ男」と呼ばれるようになる。そして彼が三人目の犠牲者を決めたところから物語は始まる。
 犯人の目から語られる部分が多く、そこがリアルで不気味。
 話は逸れるが、私が妙に納得したのはピンクハウス禁止条例のくだり。ごく一部の人だけど、全身ピンクハウスの勘違いおばさんって確かにいる。何かが捨てられない女性なんだろうなぁ。いや、何かを捨ててる女性か?

 閑話休題。
 ラスト近くのどんでん返し、恐れ入りました。え? これって誰のセリフ? ということは、このハサミ男って……。読んだ本はめったに読み返さない私が、読み終わって即、再読。そのくらい衝撃的なラスト。
 ただ残念だったのは、時々出てくる場違いな比喩。ちょっと興醒め。降ってくる雪をさして、踊る天使からこぼれ落ちた羽毛って……あり?
85点
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筒井康隆(文藝春秋社)

 短編集。
 『犬の沈黙』が面白かった。
 ある植物学者のもとへ出版社からインタヴューアーの青年がやってくる。が、彼はほとんど言葉を発しない。応対した学者の娘婿は困惑し、やがて彼を追い出しにかかるが……。

 身につまされる話であった。私も弁が立つほうではないので、集団の中では黙っていることが多い。
 だが、どうしても自分の意見を言わなければならない場面というのがあるのである。ほとほと困る。困って固まることもしばしばある。
 そんな私には、青年が「喋らなくて済むモノ」になって心底ほっとしたのが痛いほど理解できた。
 私も来世(があるなら)コレになりたい。

 他に『稲荷の紋三郎』も良かった。突然「京極氏」を持ち出すあたりなぞ、筒井氏、相変わらず茶目っ気たっぷりである。
70点
東海林さだお(文藝春秋社)

 久々にショージ君モノを買ってみた。高校生の頃ハマって読んでいた時期があったのだが、次第に飽きてずっと読んでなかったのだ。
 軽妙な語り口は変わっておらず、面白さがマンネリ感を吹き飛ばしてくれる。
 でも何より驚いたのは巻末にあった対談。ショージ君、文面から察するに、小心な気弱男なのかと思っていたのだが、けっこうキツい方らしい。
 ……二十年来誤解しておりました。それとも最近そういう人になったのでしょうか。謎は深まるばかりです。
70点
筒井康隆(岩波書店)

 父親は失踪し、母親とも死別した少女、月岡愛。
 彼女は左腕が不自由というハンディキャップを持ちながらも、父親探しの旅に出る。

 設定は近未来だろうか。現在より環境破壊の進んだ世界のようである。
 人々の心もすさみ、警察さえその機能を果たしていない。
 そんな暗い設定だが、少女の子供らしい負けん気や、脇役陣、ことに犬たちの大活躍が爽快で、読後感は悪くない。
 ……氏の著書「わかもとの知恵」の裏ワザが出てくるのはご愛嬌か。
70点
庄野潤三(新潮社)

 エッセイ。庄野氏とその奥様の、静かな日常を描き出す。
 子供たちが巣立った後、残された老夫婦。でも二人にはさびしさというものはあまり感じられない。
 庭にやってくる小鳥たちに目を細め、子供たちと連絡しあっては、何くれとなく近況を伝え合う。そんな穏やかで情趣に富んだ日々に、心から満足している様が伺えるからであろう。

 それから特に心に残ったのが、敬語である。奥様は「ばら、一つ咲きました」「シジュウカラ、来ました」といつも庄野氏に敬語で語り掛ける。それがとても品良く美しく感じられた。
 ただひとつの難点は、繰り返しの話が多いことである。気の赴くままに書かれているのであろうが、もう少し重複部分を削って欲しかった。
65点
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