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よしなしごとども 書きつくるなり
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梨木香歩(新潮社)

 思春期の女の子照美は、謎の洋館に忍び込んだ。屋敷内には大鏡があって、彼女はその中に存在する「裏庭」という異界へと誘なわれる。

 照美の大冒険は「ファンタジー」と呼ぶには設定が複雑すぎるような気がした。が、分からない部分は流して読んでしまっても大勢に影響はない。
 裏庭では彼女が何かを思った瞬間に世界が切り替わる、という部分がある。その辺が「所詮は夢物語」と読み手に思わせてしまう粗さを感じた。
 良かった点をひとつ。彼女のなかで膨らんでいく孤独感、寂寥感は丁寧に描かれていて、上手い。幸福な結末を望まずにはいられなかった。
60点
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明野照葉(光文社)

 バンコクに住む修二のもとに、母親が亡くなったという報せが届く。日本へ戻った彼は、実家の登記証書を持ち出し、そのままバンコクへと帰ってきてしまう。
 発作的なその行動は、彼の半生を表すかのようだった。何人もの人間を死に至らしめた、狂気のなせる業……。
 作品の根底には、バンコクのまとわりつくような暑さが漂っている。繰り返されるその描写は、読んでいてつらかった。
 また、修二が、妻である綾にした仕打ちもひどいものだった。綾の苦悩を理解しながら、ごまかすようなことしか言わず、彼女を追いつめたのだ。その卑怯なやり口には、まったくいらいらさせられた。
65点
瀬戸内晴美(新潮社)

 染色の仕事で生計を立てている知子。彼女は八年もの間、妻子持ちの慎吾と半同棲し、しかも他に凉太という恋人までいる。
 一見奔放に見える知子だが、その実「馴れ合いの関係」にがんじがらめにされ、引くことも進むこともままならなくなっている。

 知子と慎吾のように、悪気はないが性悪な人達の話は、読んでいて疲れる。常に誰かが問題を解決してくれるのを待っていて、それは絶望ゆえだとうそぶく。甘ちゃん同士の傷のなめあいに他ならない。
 ひとつ、心に残る表現があった。他人を疑うことを知らない慎吾をさして、知子は育ちの良さの鷹揚さだと言い、一方凉太は自分のことしか見えない利己主義だと言う。
 きっとどちらも正解なのだろう。
60点
夏目漱石(新潮社)

 家出をした19歳の主人公は、偶然知り合った男に誘われるままに銅山で坑夫になることを決心する。野卑な坑夫たちに愚弄されながら、彼は坑内を地中深く降りてゆくという、悪夢のような体験をする。

 事件らしい事件は起きないのだが、全編に小技の効いたユーモアが散りばめられていて飽きさせない。主人公の青年は、話しかけてきた男を「どてら」と命名してみたり、『汽車に乗っていたんだ、坑夫になるんだ、どうしたんだ、こうしたんだと、十二、三の「たんだ」が一度に湧いてきた……』などと表現してみたり。枝葉の部分でくすりと笑わせられた。
 また、本書の主題と思われる、人間の思考なんて所詮流動的なもので、そこに絶対を求めるのは無理だという、主人公の諦めめいた思いに、深く納得させられた。
 ところで60ページ目に、今どき珍しい伏字があった。何と記述してあったのか、気になるところである。
85点
夏目漱石(角川書店)

 高校の教科書に抜粋が載っていた。
 全文を読んで、当然のごとくさらに感動した。先生の心理、Kの思い、先生の奥さんの悲しみ。読めば読むほど心に沁みた。
 この作品は「ミステリー」だという解釈もあるらしい。確かにKが自殺するあたりは、意外性も緊迫感もあり、ミステリー、しかも一流の、と言っても過言ではないと思う。
95点
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