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よしなしごとども 書きつくるなり
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東野圭吾(集英社)

 短編集。『臨界家族』が良かった。
 哲也の四歳になる娘・優美は、あるアニメが大好き。それのキャラクターグッズをおねだりしては親を困らせていた。次々に売り出される新商品、哲也は買うことを拒否するが……。

 こんなに親の気持ちが痛いほど分かるテーマも珍しいかも。安易におもちゃを買い与えたくはない。でも周りがみんな持っているのに、ウチの子だけが持っていないという状況はつら過ぎる。そんな親心を徹底的にリサーチする企業。これはノンフィクションかもしれない、と思ってしまった。
 その他、鳴かず飛ばずの作家の悲哀を描いた作品がいくつかあったが、いずれももうひとひねり欲しい内容であった。筒井康隆氏ほどの毒もなく、かといって星新一氏ほどの軽やかさもなく、中途半端な印象。
65点
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瀬尾まいこ(マガジンハウス)

 主人公の清(きよ)は、赴任先の高校で文芸部の顧問になった。興味もヤル気もない清だったが、たったひとりの部員である垣内君と接しているうち、次第に何かが変わり始めるのだった……。

 前半、清の苦い思い出話が語られる。高校生のとき、部活仲間だった女の子を自殺に追いやったこと。この部分を読んだだけで、私はたまらない気分になった。清のような、脳みそ筋肉な人間が、心の底から嫌いだからだ。
 そして講師になってからの清もいだたけない。不倫の恋をする彼女。それ自体は否定しないが、相手の男性がいけない。利己的な、ただの優柔不断男なのである。こんな男性に魅力を感じるなんて信じ難い。
 主人公の悪口はこれくらいにして……垣内君が素直でユニークな性格なので、その点だけが面白く読めた。
60点
東野圭吾(集英社)

 1973年、大阪で質屋の主人が殺される。事件は迷宮入りとなり、19年という歳月が経つ。被害者の息子・亮司と、容疑者の一人であった女性の娘・雪穂。成長した二人の周りでは、怪しい事件が次々に起きるが……。

 主人公の二人が、心情をほとんど語らないという珍しい手法が採られている。そのせいか、読了してもよく分からない部分が多々あった。なぜ殺さなければならなかったのか、なぜレイプまでする必要があったのか。この二つだけでも本人の口から説明して欲しかった。
 さらに最大の謎は、亮司が雪穂のためにここまで出来たのはなぜかということである。二人の間に愛情があったのかどうかも記述されていないので、亮司の想いの重さが量れず、読んでいて困惑した。

 この長さを飽きさせずに読ませる筆力はさすがとしか言いようがないが、余計なエピソードを盛り込みすぎのような気もした。
70点
東野圭吾(文藝春秋社)

 ごく普通のサラリーマンである杉田平介。彼の妻・直子と娘・藻奈美がバス事故に遭い、妻は死亡し、娘は奇跡的に助かった。
 しかし意識を取り戻した娘が発した言葉は「あなた……」。娘の肉体に妻の意識が宿っていたのだった。

 平介の揺れ動く心が丁寧に描かれている。娘を失ったような、妻を失ったような、どっちつかずの悲しみ。美しく成長してゆく直子に対する、妬みと猜疑心。さすが手だれの東野氏。
 しかしながら、盗聴器のくだりはやりすぎではないだろうか。平介の人間性を疑ってしまった。
75点
東野圭吾(講談社)

 強盗に銃で頭を打ち抜かれた青年・成瀬は、世界初の脳移植手術を受けた。
 一命を取り留めた彼は、だが次第に性格が凶暴化し、元の性格を失なってゆく。自分が他人に侵食されていく恐怖……それは脳移植のせいなのか。

 成瀬の「変身」ぶりが読ませる。初めは快活になれて良かったね、という程度のものだったのに、気が付いたら大悪党になっていた。彼の焦りは想像するに余りある。
 ただ、物語の要所要所に女性が絡んでくるので、それが全体を軟派な印象にさせているような気がした。
70点
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