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よしなしごとども 書きつくるなり
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白石一文(角川書店)

 東大卒で一流企業に勤める橋田。
 彼はふとしたことで香折という女性と出会う。複雑な家庭に育ったという香折を知るにつけ、橋田は彼女のことが頭から離れなくなる。いっぽうで、彼は社長の姪である女性との交際も続けるのだった。

 どいつもこいつも超エリート、美男美女で、最初は物語に感情移入できなかった。
 だが読み進むうちに、登場人物たちの本音が透けてみえてきて、気付いたら夢中になって読んでいた。
 主人公の橋田というのは、実は非常に危険な男で、その根底にあるのは冷たさだと私は思った。
 最終的に一人の女性を彼は選ぶのだが、それは優しさゆえでは決して無い。彼の執着心がそうさせたような気がして、なんだか薄ら寒い気持ちになってしまった。
75点
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帚木蓬生(新潮社)

 つい最近まで名前すら知らなかった作家だが、読ませる読ませる。出だしの部分、脈絡のない話が続いて疑問に思ったが、後になってそれは効果的な伏線だったとわかる。
 ニュース等で殺人犯が「誰かの声に命令されてやった」と供述している、なんて話をたまに聞くが、私はそのたびに不審に思っていた。
 が、この本を読んで、その言い分を少しは信じる気になった。精神を病んでゆくってのはこういうことなのね……と納得させられた。
 大団円の裁判の部分が、泣かせる。チュウさんの善良な性格が際立つ。こういう救いのあるラストは、読後感も爽やかで良いと思う。
85点
綾辻行人(森田塾出版)

 自動車事故で大けがをした「わたし」は、記憶を失って精神科病棟に入院を余儀なくされていた。
 やがて少しずつ記憶が戻りはじめるが、それはおぞましい殺人の記憶だった……。
 作者は21歳のときに、この作品の草稿をしたためたそうだ。なるほど、文章が少々青臭い。ラストのどんでんがえしも、私でさえ予想がついた。
 きっとこの作品は、綾辻氏のファンだったら楽しめるのではないだろうか。例えて言うなら、今ではすっかり成功した画家の、若かりし頃のラフスケッチを見せてもらったような、そんな感覚だろうか。
60点

白石公子(集英社)

 郵便局に勤める直毅。彼には、実のりと穂のかという双子の妹がいた。不倫の恋に苦しむ実のり。専門学校を辞めて、小劇団に入りたいという穂のか。
 事故死した両親に代わって、妹たちを守りたいと思う直毅だが、自らの恋愛問題に思い悩む日々であった……。

 途中までは、とても面白く読むことができた。が、直毅が茜と葉子という二人の女性に、同時に好意を持つあたりから、俄然いやなムードが漂いはじめた。ん? もしかして? こいつ女々しいだけのやつ?
 それはやがて確信に変わった。こっちがダメならあっちの女。寂しさや苦しさから逃れるためだけに、女性を利用するとは、見下げ果てたヤツだ。
 だいたい、妹たちに対する感情が、兄弟愛を超えてやしまいか。そう考えると、タイトルさえ不気味に思えてくる。
60点
林真理子(集英社)

 34歳の映子は、結婚して六年になるが、子供に恵まれない。夫は優しい人ではあるが、平凡な生活に、ふと不安がよぎることがある。
 「このまま、片田舎で年を取ってゆくだけなのだろうか」と。
 そんなある日、彼女は東京の出版社に勤める渡辺という男性と出会う。やがて二人は惹かれあい……。

 既婚の同年代の女性なら、誰しも映子のような思いに囚われることはあると思う。もう異性からは相手にされない、そんな焦り、悲しみ。
 そして不倫をする女性の誰しも、自分のケースだけは不倫などという猥雑な言葉でくくって欲しくないと考えるような気がする。
 映子は、いわば女性たちの、そんな想いを代弁してくれているのかもしれない。ただ、終盤はありがちな展開で、工夫が足りないと思った。
65点
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