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われ笑う、ゆえにわれあり

土屋賢二(文藝春秋社)

 東大卒にして大学教授である著者のエッセイ。
 こういう”笑い”は初めて体験した。無駄なインテリジェンスとでも言うべきか。

 筆者は、日常の瑣末な事柄に対して、飽くなき情熱を持って真理(?)を追求する。その姿勢は、哲学者の鑑と言えよう。
 というのは全くの冗談で、筆者が悪ノリして書いているのは「火を見るよりも明らかである」。
 前文の「」の中は、筆者に教えてもらったテクニックのひとつで、説得力に自信が持てないときは、この一文で締めくくるといいらしい。
70点
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天使のナイフ

薬丸岳(講談社)

 13歳の少年三人によって、桧山の妻は殺された。が、少年法に守られ、犯人たちが罪に問われることはなかった。四年後、少年の一人が殺され桧山に嫌疑が掛かるが……。

 次から次へと事件が起き、読み出したら止まらなかった。めくるめく疾走感と隙の無さに唸った。物語の中に「殺人者」が多すぎな気もしたが、一つの罪がたくさんの悲嘆と憎悪を生み出すという構図は、すっと心に入ってきた。
 本書を読んでつくづく思ったのだが、少年犯罪に対する制度は改革が必要であろう。人の命を奪っておいて更生のための施設に送致? しかも被害者への謝罪の義務さえ無い。被害者からしたら神も仏も無いではないか。
 厳罰化しても犯罪自体は減らないかもしれない。だが被害者遺族の立ち直りの一助にはなり得ると思う。
85点

犯行現場の作り方

安井俊夫(メディアファクトリー)

 一級建築士でもある筆者が、10編のミステリー小説に登場する建物を解析、図面化した労作。
 森博嗣氏の『笑わない数学者』の検証が面白かった。
 天文台を住宅に改造したという「三ツ星館」。お椀を三つふせたようなこの館、資産価値は数十億だという。
 だが明らかに建築基準法違反! 画竜点睛を欠くとはこのことか。
 この作品に限らず、場所の特定、建築コストの設定(不便な場所なら経費がかさむ)、古い建物なら時代考証までしているところがさすがというか、考え抜かれていると思った。

※筆者である安井俊夫氏は、ネット上で長年お付き合いいただいている建築士さんです。
 それとは関係なく、楽しんで読むことが出来た一冊でした。
 ただ点数をつけるのはあまりにおこがましいので控えさせていただきます。

鏡川

安岡章太郎(新潮社)

 安岡氏の母方の親族について、系図に基づいて語った随筆。
 筆者が生まれたのが大正9年、そこから父母、祖父母、曽祖父母と遡る話なので、歴史に疎い私にはけっこうつらい読書となった。
 だが筆者が注目した西山麓という漢詩人についての記述は、面白く読むことができた。貧しく怠惰だった麓(ふもと)。遊郭上がりの女性と一緒に暮らしたり、乞食になると決心したり、破天荒な人物だったらしい。
 だが彼の奇行を、安岡氏はあたたかい眼差しで描き出す。彼の漢詩に風流を感じ取り、その才能を認めて賛辞を送るのだった。
60点

犠牲

柳田邦男(文藝春秋社)

 中学生の頃から心を病んでいた息子が、二十五歳で自殺を図って脳死状態となる。父親の後悔は、察するに余りある。心の病も長い間気付いてあげられず、自殺も止められなかった。
 そして脳死状態となったとき「臓器提供」の決心を迫られる。しかも奥さんはずっと半病人のようになっていて、もうこれでもかってくらい過酷な人生。それでも作者は淡々と筆を進めていく。
 きっと作者はいろいろなことに決着をつけて、この作品を執筆したのだろう。その、ある種の潔い感じに感銘を受けた。
80点

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