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木野塚探偵事務所だ

樋口有介(講談社)

 警視庁(でも経理課)を定年退職した木野塚氏は、私立探偵事務所を開設した。
 彼は残りの人生を思いっきりハードボイルドに生きてゆくつもりであったが、思惑どおりにはいかず……。

 これは愉快だ。小心で思い込みが激しくて冴えない木野塚氏は、愛すべき日本のオヤジそのものである。
 多くのたわ言を開陳してくれるが、不思議と憎めない。有能(?)な秘書の桃世とのやりとりもまた笑わせてくれる。
 ただ、桃世の正体が「ありがち」で、ちと残念だった。
75点
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怪奇探偵小説傑作選3 久生十蘭集

久生十蘭(筑摩書房)

 十蘭の魅力を存分に味わえる14の作品が収められた一冊。
 私が気に入ったのは『予言』。
 画家である安部は、ふとした誤解が元で石黒という男の恨みをかう。その石黒が、ある予言をした。安部は将来、拳銃自殺をするというのである。
 はじめは一笑に付していた安部だが、予言がことごとく的中してゆくにつれ、絶体絶命の境地に陥ってゆく……。

 いかなる深刻なシーンでも、一種の「軽さ」が失われることがない。安部の飄々とした性格のなせる業でもあろうが、筆者自身が、憂愁に閉ざされることを厭う気配がうかがわれる。
 また、細部にまで神経が行き届いた表現が使われていて、初冬の夕暮れの描写、セザンヌの絵画についての描写など、ぞくぞくするほど素晴らしかった。
85点

肌色の月

久生十蘭(中央公論社)

 代々ガン死する家系に生まれた久美子。彼女はある日見上げた月が肌色に見えたことから、自分の死期を悟り、自殺するために旅立つが、そこで奇妙な事件にまきこまれてゆく。

 この作品集(中公文庫版)の白眉は、筆者の夫人が書かれた「あとがき」である。夫人は筆者が志半ばで逝ってしまったあと、作品の続きを書き上げ、その闘病の様子を「あとがき」に記している。最後まで書くことに執念を燃やす筆者、支えようとする夫人。初めて「あとがき」で泣いた。
 作品自体は、推理小説としては甘い筋立てであるが、どこか茶目っ気のある文章で、楽しんで読むことができた。
80点

ツ、イ、ラ、ク

姫野カオルコ(角川書店)

 とある田舎町の小学校。2年2組の少女たちは、泣いたり笑ったり、嫉妬したり妄想したりしながら成長していた。
 やがて彼女たちは中学生になり、恋を知り、性欲を知る。特に精神的に早熟だった準子は、河村という教師に興味を持つようになり……。

 子供たちは「こんな子、確かにクラスにいた!」と思わせるリアルさを持っていた。暴君な女ボス・統子。一人が好きな準子。なんでもそつなくこなす太田君。キザな転校生の佐々木君。小学生時代の自分はどの子かな? と思わず夢想するほどだった。
 ただ中学以降のストーリーは、過激すぎて面食らってしまった。準子の一連の事件もそうだが、美しい小山内先生の美しくない過去は、不気味ささえ感じてしまった。
75点

よるねこ

姫野カオルコ(集英社)

 ホラー短編集。
 『ほんとうの話』が面白かった。
 幼いころから霊感が強かった「私」。級友が事故で亡くなったとき、お手伝いのおばあさんが亡くなったとき、「私」は彼らの声を聞いた。
 ただ不惑の歳を迎えようとしている今は、その霊感もだいぶ薄まったように感じていた。が、あるとき、帰省中の「私」は不思議な光景を目にする……。

 いわゆる「よくある話」なのだが、「私」の心情が細部まで丹念に書き込まれているせいか、かなり恐怖感をあおられた。特にラストの学校のシーンは怖かった。
 その他『女優』も良かった。最後の二行にはかなり驚かされた。
75点

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