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よしなしごとども 書きつくるなり
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向田邦子(文藝春秋社)

 戦前。妻と娘、そして父親と質素に暮らす水田。見栄えが悪く無骨な彼だが、その妻たみは、なかなか出来た妻であった。
 一方水田の友人である門倉は、中小企業の社長で羽振りが良く、華がある性格で、女性関係も派手だ。
 そんな正反対の二人だが、なぜかウマが合い、男同士の友情で結ばれていた。しかしまた、二人は気付いてもいた。門倉が、水田の妻たみに密かに想いを寄せていることに……。

 戦前の日本の様子など、もちろんこの目で見たことはないが、この作品を読むとその頃の庶民の暮らしぶりが本当に良く分かる。筆者が脚本家でもあるせいか、ひとつひとつのシーンが、映像として浮かんでくるようである。
85点
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三崎亜記(集英社)

 ある日、地元の広報紙に掲載された「となり町との戦争のお知らせ」。「僕」は理解も納得もできぬまま、敵の偵察業務をすることを命じられる。
 ただ、戦争とは言っても、戦車が街を行きかうわけでなし、銃声が響くわけでもない。それなのに、広報紙には「戦死者」の数だけが載っている……。

 町が、ひとつの政策として戦争を遂行する、という不気味な設定が効いている。そこには個人の思いが入り込む余地はないし、すべては、人の死さえ事務的に処理されていく。
 その静けさ、容赦のなさがとても恐ろしかった。
 全体的には気に入ったが、香西さんとの恋愛じみた話はいただけなかった。
 彼女の代わりに、職務と自己の間で揺れる、繊細な男性を登場させたほうが、よりストーリーが引き締まったのではないだろうか。
70点
三島由紀夫(新潮社)

 「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」という言葉で有名な「葉隠」。その書に対する、三島なりの解釈を表した一冊。

 周知の事実であるが、三島は割腹自殺を遂げた。そのことを思うに付け、彼が葉隠に心酔したわけが透けて見えるようである。常に死を意識し、それを身近なものとして捉えているのが葉隠なのである。
 また、次のような一文もある。「上役には煙たがられるような存在であれ」。
 それを受けて三島は、人に煙たがられることが避けられないのは『人に軽蔑されるくらいなら、死んだほうがましだ』という、信念ゆえである、とも明言している。そのような解釈は、彼の孤独感、厭世観から来ているようにも感じられた。

 一冊の書物に自らの行動規範を置く危険性を、三島が身を持って示してくれたかのような作品であった。
50点
三島由紀夫(新潮社)

 世にも美しい妻をめとった男は、実は極端なエゴイストだった。妻が顔にひどい火傷を負った途端、関心ゼロになってしまう。その後、彼は興味の対象を娘へと移し、今度は娘に自分の価値観を押し付けていく。

 たとえば娘と食事をするシーン。食前酒のオーダーは、洋服の色と同じ色のカクテルを頼みなさい、と彼は進言する。私だったら余計なお世話、である。
 やがて娘は条件の揃った美男子と婚約して、父親である彼も御満悦だったのだが……。ラスト近く、妻が見事に復讐を遂げるところでは胸のすく思いがした。
75点
乙一(角川書店)

 連作短編集。
 僕とクラスメートの森野夜は、共通する習性で繋がっていた。人間の持つどす黒い残酷性に、興味を惹かれる習性である。

 いろいろなタイプの「異常者」が登場するのだが、みな一様に落ち着いていて、決して快楽的ではない。淡々と自分がしたいことをこなしてゆく……たとえ殺人であっても。そんな雰囲気である。
 その独特の静けさが、逆に彼らの禍々しさを際立たせてもいる。
 早く続きが読みたいと思わせる筆者の腕は素晴らしいが、ただ単行本に「あとがき」を書くのはいかがなものか。潔さが足りなくはないだろうか。
 私は、執筆活動の裏話を、こういう形で読みたくはない。
80点
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