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よしなしごとども 書きつくるなり
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鴻巣友季子(ポプラ社)

 「翻訳とは何ぞや?」という問いに、小説『嵐が丘』の翻訳仕事などを通して応えるエッセイ。
 原文と格闘する筆者の必死さがひしひしと伝わってきた。「wine」という一語を、ぶどう酒とするか、ワインとするか、はたまた酒でいくか、筆者は考えに考える。
 よっぽど変な訳でない限り、きっと読者は気付かないだろう。しかし少し変な訳の場合、違和感が残りそうな気もする。そのかすかな違和感を埋めるべく、翻訳者というものは懸命になるのであろう。

 第二部は、柴田元幸氏との翻訳対談。筆者には申し訳ないが、第一部のエッセイよりこちらのほうが面白かった。興味のない話はちゃんと訳したくもないので、そこは他人にみてもらうという柴田氏。あまりに潔くて笑ってしまった。
55点
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近藤史恵(新潮社)

 プロの自転車競技の選手・白石。ロードレースで、彼はアシストとして活躍する。エースのために、エースを優勝させるためにだけ走るアシスト。彼は自分の役割に満足していたが……。

 ロードレース? それって一体? とまったく期待せずに読んだが、面白すぎて一気読みしてしまった。自転車という、シンプルにして肉体と一体化する乗り物を操り、山を峠を駆け抜けていく男たち。その駆け引きに魅了された。
 ある事件が起き、終盤ですべてが明らかにされるわけだが、登場人物たちの思惑が入り混じり入り乱れ、とても読み応えがあった。
 ただ、この主人公はいけ好かない。いつも超然として、訳知り顔で場の隅に佇んでいるような男。タチが悪い。
85点
河野多惠子(新潮社)

 四つの短編が収められているが、表題作の『臍の緒は妙薬』が良かった。
 峰子はある小説に「臍の緒は大病にかかった当人に煎じて服ませれば助かる」と書かれているのを読み、以来臍の緒のことが気になってならない。自分の臍の緒の包みが開けられていたのは、その謂われと関係があるのだろうか?

 話の展開がとても自然で、まるでエッセイのような筆致である。
 実在の店名が書かれ、ぽんぽんと軽妙な会話。たいした事件は起きないのだが、その文章には読者を惹きつけて止まない独特のリズムがある。他の三編もしかり。
 「小説は作り話なので読まない」とのたまう学者がいたが、ぐだぐだのノンフィクションを読むなら、洗練されたフィクションのほうが良いという好例がここにある。
80点
今野敏(新潮社)

 警察庁の長官官房所属の竜崎。自らをエリートと言い切る彼は、周囲には変人扱いされていたが、国家の安全を守るために全力を尽くそうと考え、日々それを実践してもいた。あるとき連続殺人事件が起き、竜崎も警察内部の騒動に巻き込まれていく……。

 頭がコチコチに固くて融通が利かないヤツとして竜崎は描かれているが、嫌悪感はわかない。彼の「エリートには特権もあるが大きな義務もある」という、至極当然な(だが周りには理解されにくい)考え方がストレートに伝わってきて、むしろ好感を覚えた。

 殺人事件捜査の経過と、竜崎の家で起きた「事件」のなりゆきが同時進行で描写されているのだが、話に厚みが生まれて良い構成だったと思う。
80点
斎藤澪(角川書店)

 病弱な母親と二人、極貧にあえいでいた少女、麻矢。彼女が七つになる年に、母親は自殺した。少女の胸には、母親から繰り返し聞いた、不実な父への怨みが深く刻まれた。「とおりゃんせ、とおりゃんせ……」という、母親が歌う復讐の子守唄とともに。

 謎解きの部分、第7章~終章が読ませる。真実があまりに切なく、麻矢の運命があまりに残酷で、読後感は「悲しい」のひと言に尽きる。
 全体にいろんな話が盛り込まれてて(手相の話、捜査における八何の原則など)興味深く読めた。だが「○○へ行って○○という事実を掴んだ」というように話を端折っているような部分があり、筆者に手抜きをされたような印象を受けた。
70点
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