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よしなしごとども 書きつくるなり
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石持浅海(祥伝社)

 大学の同窓会をするべく、七人の男女が高級ペンションに集まった。
 メンバーの一人である伏見は、そこで後輩の新山を殺害し部屋に閉じ込めた。他の面々はそうとは気付かず、部屋から出てこない新山を気遣うのだが……。

 いけ好かない作品、というのが読んでいる最中の印象だった。
 知的で洗練された男女の会話はこうです、とでも言いたげな型通りの会話がとにかく鼻に付いた。
 ストーリーも納得できなかった。終盤で犯人の動機が明らかになるのだが、それがありえないくらい弱い。そんな理由で後輩を殺したのだとしたら、今後伏見は何度も殺人を犯さずにはいられないのではないだろうか。
 どんなに素晴らしいトリックがあったとしても(この作品のそれが「素晴らしい」かどうかは置いておいて)、動機が脆弱では三流の価値しかない作品としか言いようがない。
40点
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樋口有介(講談社)

 警視庁(でも経理課)を定年退職した木野塚氏は、私立探偵事務所を開設した。
 彼は残りの人生を思いっきりハードボイルドに生きてゆくつもりであったが、思惑どおりにはいかず……。

 これは愉快だ。小心で思い込みが激しくて冴えない木野塚氏は、愛すべき日本のオヤジそのものである。
 多くのたわ言を開陳してくれるが、不思議と憎めない。有能(?)な秘書の桃世とのやりとりもまた笑わせてくれる。
 ただ、桃世の正体が「ありがち」で、ちと残念だった。
75点
久生十蘭(筑摩書房)

 十蘭の魅力を存分に味わえる14の作品が収められた一冊。
 私が気に入ったのは『予言』。
 画家である安部は、ふとした誤解が元で石黒という男の恨みをかう。その石黒が、ある予言をした。安部は将来、拳銃自殺をするというのである。
 はじめは一笑に付していた安部だが、予言がことごとく的中してゆくにつれ、絶体絶命の境地に陥ってゆく……。

 いかなる深刻なシーンでも、一種の「軽さ」が失われることがない。安部の飄々とした性格のなせる業でもあろうが、筆者自身が、憂愁に閉ざされることを厭う気配がうかがわれる。
 また、細部にまで神経が行き届いた表現が使われていて、初冬の夕暮れの描写、セザンヌの絵画についての描写など、ぞくぞくするほど素晴らしかった。
85点
久生十蘭(中央公論社)

 代々ガン死する家系に生まれた久美子。彼女はある日見上げた月が肌色に見えたことから、自分の死期を悟り、自殺するために旅立つが、そこで奇妙な事件にまきこまれてゆく。

 この作品集(中公文庫版)の白眉は、筆者の夫人が書かれた「あとがき」である。夫人は筆者が志半ばで逝ってしまったあと、作品の続きを書き上げ、その闘病の様子を「あとがき」に記している。最後まで書くことに執念を燃やす筆者、支えようとする夫人。初めて「あとがき」で泣いた。
 作品自体は、推理小説としては甘い筋立てであるが、どこか茶目っ気のある文章で、楽しんで読むことができた。
80点
姫野カオルコ(角川書店)

 とある田舎町の小学校。2年2組の少女たちは、泣いたり笑ったり、嫉妬したり妄想したりしながら成長していた。
 やがて彼女たちは中学生になり、恋を知り、性欲を知る。特に精神的に早熟だった準子は、河村という教師に興味を持つようになり……。

 子供たちは「こんな子、確かにクラスにいた!」と思わせるリアルさを持っていた。暴君な女ボス・統子。一人が好きな準子。なんでもそつなくこなす太田君。キザな転校生の佐々木君。小学生時代の自分はどの子かな? と思わず夢想するほどだった。
 ただ中学以降のストーリーは、過激すぎて面食らってしまった。準子の一連の事件もそうだが、美しい小山内先生の美しくない過去は、不気味ささえ感じてしまった。
75点
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