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パイロットフィッシュ

大崎善生(角川書店)

 アダルト雑誌の編集者である山崎。彼のもとに、あるとき一本の電話が入る。それは19年前、彼が学生の頃に出会って別れた、由希子からの電話だった。
 偶然出会って、やがて悲劇的な別れ方をしたふたり。山崎の胸に、思い出が蘇る。

 山崎が、精神を病んでしまった友人に、記憶について語る部分が秀逸だった。
 若い頃は己の感性を振り回して、他人に暴言を吐いた。それは何年経っても心から消えることはなく、後悔に苛まれる。だがやってしまったことは消せないのだから、記憶とうまく共存してゆくほかはない。そう彼は語る。
 単純だけれど、説得力のある彼のセリフには共感することができた。
 それから、小道具の使い方もうまい。どこまでも透明で静かなアクアリウム。二匹のチワワ。淡いレモン色のワンピース。映像で見せられたかのように、光景が目に浮かんできた。
90点
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ビビを見た!

大海赫(ブッキング)

 復刊ドットコムというサイトによって復刊が実現したという本書。
 あるとき、盲目の「ぼく」の目が、急に見えるようになった。そして目が見えていたひとは、残らず盲目になっていた。驚くぼくの耳に、サイレンが鳴り響く。「敵」が攻めてきているという。ぼくとおかあさんは汽車で逃げることにしたのだが、その車中で不思議な少女に出会う……。

 絵本なのだが、子供が見たら怖い夢を見そうなタッチの絵である。ストーリーも残酷な部分もあり、ラストも決してハッピーエンドではない。
 でもこの世の理不尽さとか、不公平感などを、ド迫力の絵でもって語り掛けてくれているようでもある。
 巻末にある解説では、悲しくてすばらしい話、とよしもとばなな氏も熱いメッセージを書かれている。
75点

夫婦の一日

遠藤周作(新潮社)

 短編集だが、エッセイのようでもありフィクションのようでもあり。
 一番衝撃的だったのは「六十歳の男」という作品。この中で六十歳を過ぎた男が、この歳になっても死の恐怖に襲われることがあるというくだりがある。歳をとるに従って「諦観」というか「もう充分」という気持ちになるのかと思っていたのだが、そうでもないらしい。むしろ若い頃より確実に死に近いわけで、怖さ倍増、その恐怖感はより具体的なのかも。
60点

早く昔になればいい

久世光彦(新潮社)

 「私」は十四歳のころに友人達と狂女の「しーちゃん」を輪姦してしまう。その後彼女は誰の子とも分からない子供を出産し、やがて早死にしてしまう。「私」は四十年ぶりに故郷へ舞い戻り、当時の記憶を探るが……。

 テーマは暗いが、そこはかとなく軽やかな印象を受ける作品である。
 最も印象深いのは「私」が回想する、事件のときの「しーちゃん」である。彼女の身に纏っていたもの、彼女の行動、彼女の身体。執拗にその描写が繰り返される。
 それは「いやらしい」と片付けてしまうのが憚られるくらい、ひたむきで切ない。
70点

沈黙

遠藤周作(新潮社)

 切支丹が激しく弾圧されていた時代、遠くポルトガルから、命からがら日本へとやってきた司祭、ロドリゴ。彼もやがては囚われの身となってしまう。最後の瞬間、彼は踏み絵を踏むのか否か。

 宗教についてここまで考えさせられたことは、未だかつてなかったように思う。
 棄教を迫られ、自らの命が危険に晒されても信仰を捨てない信徒たち。だがどんなに苦しんでも悲しんでも神は「沈黙」しているのである。それはなぜか。
 神とはひたすら「感謝」を捧げるためだけの存在なのか。それ以前に、存在として捉えていいのか。
 無宗教の私には重すぎるテーマではあった。だが心を打つ素晴らしい作品であったことは間違いない。
90点

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