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よしなしごとども 書きつくるなり
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小泉八雲(新潮社)

 短編集。たくさんの短編が収められている。
 幼い頃に読んだり聞いたりした、いわゆる怪談話は、ほとんどこの本に収められていた。
 有名な『耳なし芳一のはなし』を始めとして、茶碗の中に誰かの顔が見えるという『茶碗の中』、斬首刑にされる罪人の意趣そらしをする『かけひき』など、今読んでも面白い話ばかりである。

 小泉八雲は本名ラフカディオ・ハーン、言うまでもないことだが生粋の日本人ではない。本文中、体重はポンド、距離はヤードで記されているところが、いかにもそれを感じさせた。
80点
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小林多喜二(新潮社)

 オホーツク海で操業する蟹工船。元農夫、坑夫、学生などの乗組員は、過酷な労働を強いられていた。死と隣り合わせの毎日を生きるうち、彼らは次第に団結してサボタージュを行うようになり……。

 船底にある「棚」が乗組員たちの寝床だ。シラミや南京虫があふれ、悪臭ただよう不衛生極まりないそれを、彼らは糞壺と呼んでいた。昼は長時間労働、夜は糞壺。彼らがやがて立ち上がりストライキを起こすのも、むべなるかなであったろう。
 虫けらのように殺される運命なら一矢報いたい……彼らの叫びは搾取される側の共通した叫びだと思った。
 もう一つの中編「党生活者」も共産主義者を描いたスリリングな一編であった。

 筆者は左翼文学運動をして逮捕され、警察の拷問によって殺されたそうだ。言論の自由もへちまも無かった時代に、命を賭して作品を書いていた筆者の気迫が感じられる一冊であった。
65点
歌野晶午(祥伝社)

 とある新興宗教の信者五名が、無差別爆破テロを実行し、無人島に逃げる。教祖は暫く経ったら海外へと脱出させてくれると言うが、どうやら彼らはただのスケープゴートだったらしい。

 序盤で「宗教」というものの暗部をあぶり出している。教祖の教えは絶対でそこに疑問を差し挟む余地はなく、服従することに喜びを見出す彼ら。
 その危険性に気付いたときには時すでに遅く、一人、また一人と命を失ってゆく……まったく同情する気にもなれない話である。
 とても短い作品で、まるで長編の下書きを読んでいるような気にもさせられた。しかし、ラストには含みのあるオチが付いていて、小さな余韻が残る作品であった。
65点
小泉吉宏(幻冬舎)

 全五十四帖の源氏物語。一帖を見開き二頁の漫画にしたのが本書。
 漫画の書評を載せることに迷いがあったが「文芸」のベストセラーリストに載っていたので良しとしよう。
 とにかく分かりやすく、が作品のコンセプトだと思うが、それでも誰が誰やら訳がわからなくなってくる。

 しかしながら、この時代の色恋沙汰は、なんて面倒な駆け引きだらけだったことか。
 思いを寄せる女性にはいちいち歌を詠み、しかもセンスのあるものでないと鼻で笑われてしまうのである。
 加えて、身分と立場をわきまえなくてはいけないし、短命だし、常に「出家すること」が頭の片隅にあるし。
 ああ、まろ、大変そう……でも栗顔のまろは恋愛の苦悩さえ楽しんでるように見えてしまうから不思議である。
75点
五味太郎(講談社)

 筆者は絵本作家として有名だが、こういう本も面白い。百五十個の短いフレーズが載っている。
 その内容は、どれをとっても、手放しで納得できるような一文ばかりであった。
 ふとした瞬間に、こういうことを心の片隅の、そのまた裏側あたりで考えているような気がするのだが、うまく表現できない。それをこうして言葉にしてくれる人がいると「やはりA=Bであったか」と、確認できて嬉しい、そして楽しい。
 絵も言うまでもなくユニークで、そちらを眺めるだけでも楽しい。
80点
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