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雪のひとひら

ポール・ギャリコ(新潮社)

 冬のある日、はるかな空の高みで雪のひとひらは生まれた。地上に降り立った「彼女」は、原っぱから川へ、湖へ、海へ、旅をし続けた……。

 裏表紙の粗筋を読んだときには「子供だましのファンタジー小説?」と危惧したが、それは要らぬ心配であった。
 まず出だしからして、とても惹きつけられた。雪のひとひらが初めて目にした日の出の様子が、情緒たっぷりに描かれている。
 また、雨のしずくとの出会いのシーンも良い。それまで孤独だった彼女が味わった、めくるめくような高揚感が伝わってくる。

 物語のそこかしこに創り主の存在をほのめかすような文章が登場するが、それが素直に心に響いた。いまわのきわに彼女は思う……この宇宙のすばらしい調和について。つつましい存在の自分自身ではあるが、決して無意味な存在ではない、ということを。
 彼女が得た気付きは、そのまま私の心をも鎮めてくれた。
80点
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ユダの窓

カーター・ディクスン(早川書房)

 婚約者の父親に会いに行った男。出されたウィスキー・ソーダを飲んだ彼は、急に気を失ってしまう。
 次に気が付いたときには、父親は殺されており、彼は密室で二人きりであった……。

 作品の舞台はほとんど法廷である。
 そこでの被告人側の弁護人と、日本で言うなら検事にあたる、追訴側の弁護人との息詰まるようなやりとりが読ませる。
 被告人側の弁護人、ヘンリー・メリヴェール卿の策士振りが際立つ。
 ただ、密室のトリックは感心しなかった。万人に理解できるトリックではないと思う。
65点

予告殺人

アガサ・クリスティ(早川書房)

 ある朝新聞に殺人の予告が掲載される。で、その通り一人の男が殺される。彼は予告された屋敷に強盗目的で押し入り、逆に撃たれて死んでしまう。謎解きするのはミス・マープル。
 やっぱりクリスティは上手い。細かいところが読ませる。
 私が気に入ったのは、おしゃべりな老婆を指して巡査が報告書に「猫!」と書いたというくだり。言い得て妙。
 それから世間に怨みを持っている人間は「世間は当然自分達に償いをすべきだ」と考えているという部分。確かにそういう人間は多いように思う。
75点

夜の記憶

トマス・H・クック(文藝春秋社)

 まず、劇中劇というか、小説中小説の手法がおもしろかった。
 主人公は、ミステリー作家。彼は幼くして両親を亡くし、その後、姉も惨殺されてしまう。しかも彼の目の前で。彼は、事あるごとにそのシーンを回想する。姉がどんなふうに殺されたか、どんなことを言ったか。それが「しつこい」と「適度」の間を行ったり来たり……かなり微妙。

 この作品、全体的には好印象だったが、疑いを掛けられていた人物が実は犯人ではなかった、ということがわかった後の部分が、少しだけ説明不足のような気がした。単に私の読み込み不足か(今回はなぜか謙虚)。
70点

夜の来訪者」ジョン・ボイントン・プリーストリー(岩波書店

ジョン・ボイントン・プリーストリー(岩波書店)

 三幕からなる戯曲。さくっと読める長さだが、内容は濃い。
 街の実力者バーリング。彼の家では今宵、娘の婚約を祝うささやかなパーティが催されていた。そこへ突然グール警部という男が訪ねてくる。ある女性が自殺したことについて、バーリング家の人々に訊きたいことがあるという……。

 誰もが自分は無関係だと思っていた。だが誰もが女性の人生に多大な影響を与えていた。その事実を知ったとき、素直に反省するもの、罪を認めようとしないもの、言い訳に終始するもの、それら様々な反応が各人の人間性をあぶりだしていて面白い。

 娘が父親に言ったひと言、
 「問題は、お父さんたちが何ひとつ学んでないってことなのよ」
 は、何があっても自分の価値観を変えようとしない人間を痛烈に批判していて、私自身もぎくりとなった。
85点

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