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よしなしごとども 書きつくるなり
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鯨統一郎(光文社)

 童話作家を夢見て大手企業を辞めた研二。彼の妻稔美と息子の虹野がある日何者かに誘拐されてしまう。
 犯人の目的は、稔美の記憶の底にある、宮沢賢治の遺した「七色のダイヤモンド」の隠し場所である。

 組織犯罪あり、童話の解説あり、妖精の登場あり、レイプシーンあり、と内容は多彩である。
 しかし、散漫な印象はなく、加えてとても理解しやすい文章である。
 ラスト、カリスマ性に欠ける犯行首謀者に少し失望した。部下たちがなぜ彼を崇拝できたのか不思議である。
 それと揚げ足を取るようだが、生活苦ゆえ米に玄米や餅米を入れていたという記述はおかしい。一般的に普通米より餅米のほうが高価であるはずだ。
75点
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おーなり由子(新潮社)

 コンセプトは大人の絵本、か。何かの雑誌でお薦め! と書いてあったので、素直な私は即読んで見た。でも、繰り返し読む気になる本ではない。絵は嫌いではないが……内容がどうにもかゆい。
 いや、けなしているわけではないです。ただ私には合わなかったということで。
20点
大島真寿美(角川書店)

 高校生の知世子。映画研究部の部員である彼女は、あるとき卒業した先輩の正岡くんと再会する。二人はひと夏の間、ビデオカメラを回す。映される知世子と映す先輩。知世子はでたらめなことをしゃべり続ける……。

 フェリーニの映画「道」の話が頻繁に出てくる。それがしっくりと作品に溶け合っていて、知世子(チョコリエッタ)と主演女優のジュリエッタ・マシーナの会話にも違和感を抱かなかった。
 それと、先輩の祖父の話が良かった。道を踏み外しそうになっている孫を、風格と凄みで救う祖父。素晴らしい。

 この作品、装丁がとても可愛い雰囲気なので、逆に損をしているかもしれない。「いい大人が読む作品じゃない?」と思われそうだ(現に私はそう思った)。
80点
大崎善生(新潮社)

 小説家になろうとしていた「僕」は、27歳にして自分が何も書けないことに気付いて愕然とする。苦しさに耐えかね、彼はブリュッセル行きを決意する。そこで偶然日本人の女性と知り合い、六日間だけ一緒に過ごす。
 たった六日間、だが彼の生き方を決定付けた六日間。

 静かでまっすぐなストーリーである。読んでいて気恥ずかしくならない、クサさのないストーリーである。これは素晴らしいと思う。
 でも表題作より、他の三編のほうが私は断然好きだ。特に『ケンジントンに捧げる花束』が良い。悲しくて美しくて、泣けた。
 ただ、惜しいかな女性の描き方がワンパターンであった。イイ女はすべて白いブラウスにジーンズ、というのはいただけない。
90点
久世光彦(中央公論新社)

 短編集。桃にまつわる8つの物語が収められている。
 『桃――お葉の匂い』。女衒を生業とする「私」は、ふとしたことからお葉という女と一緒に暮らすようになる。
 だがあるとき、お葉は忽然と姿を消してしまう。崩れかけた大きな桃を残して……。

 暗く淫らな話が多い短編集だが、これも例外ではない。女郎屋の女、妾、立ちん坊をする女。「私」の周りはそういう女たちばかり。だが不思議に嫌悪感は湧いてこない。
 ずっと漂い続ける桃の匂いのせいか。桔梗納戸、苔色、赤朽葉、藤色……ちりばめられた色の名前の、美しさゆえか。
 薄気味悪いストーリーだが、読後感は悪くない。
70点
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