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よしなしごとども 書きつくるなり
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ジョン・ダニング(早川書房)

 「本好きにはたまらない一冊」という宣伝文句に惹かれて読んだが、これは正しくは「古本好きには……」でしょう。私なんかにはわからない世界。なにしろ「莫大な価値のある古本」を主軸に物語が展開していくのだから。
 ま、それでもストーリー自体は充分読み応えがあったけれど。
 加えて登場人物もなかなか魅力的。ねんごろになった主人公の男女が、車の中でかわすセリフ。「……はっきりいうけど、あなたのその態度、あたし嫌いよ」「これが地だよ」。
 クールである。そういう点でも楽しめた一冊だった。
80点
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パトリシア・ハイスミス(早川書房)

 タイトルのとおり、十一の短編が収められている。『すっぽん』が印象に残った。
 十一歳のヴィクターは、自分の気持ちを理解しようともしない、高圧的な母親に辟易していた。あるとき母親が食材として生きたすっぽんを買ってくる。ヴィクターはすっぽんを殺さないよう懇願するが……。

 子供の心が壊れる瞬間を、とても鮮やかに描き出している。最近恐ろしい事件がいろいろ起きているが、その引き金になる事柄というのは案外こんなことなのかもしれない。
 その他、子守として雇った女の狂気を描いた『ヒロイン』、巨大かたつむりの探索に魅入られた男の悲劇を描いた『クレイヴァリング教授の新発見』などが面白かった。
80点
スコット・スミス(扶桑社)

 はじめはまさにシンプルなプランだった。偶然手に入れた大金を三人の男は自分たちのものにするべくプランを立てた。でもそれは少しづつ狂い始めてやがて……。

 終わり近く、コンビニでの事件が印象的だった。ラジオから流れる伝道放送、ワインと混ざる血。落ちるところまで落ちた人間は恐ろしい。
85点
オルダス・ハックスリー(講談社)

 フォード紀元XX年、人々はすべて人工授精で産まれ、胎児のうちから階級分けされて条件反射を仕込まれる。たとえば暑い場所で働く予定の者は、暑さを本能的に好むように。
 文学も宗教もなく、不快なことはことごとく排除された社会。それは果たして「すばらしい新世界」なのか?

 いつか面白くなるのかと最後まで我慢して読んだが、徒労に終わった。
 旧世界から偶然野蛮人がやってきたあたりは少し盛り上がったが、彼が何かにつけシェークスピアの「オセロ」などの一節をそらんじるので、読んでいて白けてしまった。なぜ彼は自分の言葉で表現しないのか、と。
 ラストは、まぁこうなるだろうな、という意外性のないラストだった。もうひとひねり欲しかった。
40点
イーユン・リー(新潮社)

 アメリカに行きたいという友人のために、自分の恋人と偽装結婚させるという方法を思い付く三三(サンサン)。二人は無事にアメリカに行くが、偽装のはずだった結婚を続けるという。それから十年、三三のもとに二人が離婚したという知らせが届く。独身を通していた三三は戸惑うが……。

 十個の短編の中で一番気に入ったのが、こんなあらすじの『市場の約束』である。
 三三の独り身の悲哀がしんしんと伝わってきた。教職にあるものの、学校では浮いた存在であるらしい。煮玉子売りをしている母親は、無学で頑固。
 そんな閉塞感を打ち破るような事件がラストで起きるが、彼女の未来が相変わらず明るくは無さそうなのが哀れだ。
 この作品もそうなのだが、淡々とした語り口でありながら一種の「熱」を感じさせる作品が多かった。中国という国が人々の生活に暗い影を落としても、彼らはしぶとく生きていく……その根底に秘められた「熱」を見た気がした。
85点
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