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よしなしごとども 書きつくるなり
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中勘助(岩波書店)

 強姦された若い娘は、加害者である異教徒の男に、熱烈に恋してしまう。それを彼女に打ち明けられた苦行僧は、あろうことか彼女と半ば強引に関係を持ち、妖術によって互いを犬に変えてしまう。

 この作品、雑誌に掲載された当初、伏字にされたそうである。なるほど、性描写の部分はかなりきわどい。
 だがそこに薄っぺらい表現は微塵もなく、ただ「性」に翻弄される人間の悲しさが、叩きつけるように描かれている。
 苦行僧の浅ましい行為や、若い娘の潔癖であろうとするのに奈落に堕ちて行くさまなどが、ぐいぐいと心に迫ってきた。
85点
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永倉万治(幻冬舎)

 エッセイが面白いかどうかは、読んでいるときに「へへへっ」と声を出して笑えるかどうかで分かる。これは合格。
 今はもう立派な「オジサン」である筆者が、「青春」について飄々と語っている。
 筆者十七歳の夏、童貞を捨てるべく海へと向かう。髪にバイタリスをぶっかけて……という部分で笑ってしまった。懐かしいです、バイタリス。
70点
中島敦(新潮社)

 「山月記」「名人伝」「弟子」と、以下に紹介する「李陵」の四編が収められている。

 漢と匈奴(きょうど・遊牧騎馬民族)が激しい抗争を繰り広げていた時代。
 李陵というひとりの武将が匈奴に戦いを挑むも、逆に囚われの身となってしまう。彼を擁護するような発言をして刑罰を受ける、司馬遷。また、捕虜となっても決して降伏することのなかった、蘇武。三人三様の生き方を、力強く描く作品。
 と、さも分かったように粗筋を書いたが、私にはとても難しい作品だった。山ほど注解はあるものの、歴史的流れがよく理解できないのだ。
 それでも、郷土愛に燃える、誇り高き蘇武に、李陵が圧倒されて自分の小者ぶりに愕然とする部分などは、とても心に響いた。
 「山月記」でも誰にも知られずに忘れ去られる者の不安が描かれていたが、そのあたりが作者の不安とも結びついているのだろうか。
60点
長嶋有(文藝春秋社)

 小学生の慎は母親と二人暮らし。あるとき母親が再婚すると言い出し……。

 パワフルで少し自分勝手な母。慎に対しては一定の距離感を保とうとしているかのようだ。でも愛情に裏打ちされてる「距離」なので、冷たさは感じられない。
 一方慎は、母親を嫌悪することもなく、そっと寄り添うことで充足するような子供として描かれている。
 二人でいると居心地のよさそうな親子。そんな印象が残った。
 同時収録の「サイドカーに犬」も良い作品だ。私はこっちのほうが好きだ。
75点
中島らも(集英社)

 アル中の教授、大生部。彼の娘「志織」は、七歳のときケニアで事故死する。数年後、テレビ局の特番の撮影で、彼は再びケニアへと飛ぶ。

 導入部から、息をもつかせぬ展開。寺の僧侶が命を賭してする荒行。大生部の妻がハマる新興宗教、ケニアでの撮影、テレビ局内での死闘。ヤマ場の連続である。
 多くの文献を参考に書かれたようだが、らも流にうまく消化されていて、とても読みやすい。
 ただ「志織」の心理描写が不足していると思う。呪術師に操られている、という設定はわかるが、スタンスが曖昧過ぎ。
75点
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