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雪沼とその周辺

堀江敏幸(新潮社)

 連作短編集。
 雪沼という小さな街で暮らす人々の日常を、丁寧に描いている。
 「送り火」という作品を紹介しよう。
 書道教室を営む陽平さんと絹代さん夫妻。ふたりには由(ゆい)という息子がいたが、小学生のときに事故で亡くなってしまう。その13回忌のとき、絹代さんは息子に関するある話を耳にし……。

 子供の命を救ったかもしれぬ小さな灯り。絹代さんが蒐集するランプの灯り。それらがシンクロして、悲しい陰影を形づくる。
 いずれの短編も味わい深く、文章には透明感がある。それゆえ退屈な部分もあり、「純文学」好きにウケそうな雰囲気ではある。
70点
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龍宮

川上弘美(文藝春秋社)

 短編集。ヒトでないものが人間社会に入り込んで、人間然として生きてゆく話が多い。
 「島崎」を紹介しよう。
 生まれて二百年ほど経っている「わたし」は、七代前の先祖を好きになる。人生相談などして生活しているご先祖様。好きだと告げると、あなたは冷静すぎる、と返すご先祖様。抱いてはくれないご先祖様。
 ストーリーは簡単で難しい。単純なパーツで複雑な世界が構築されている。
 ……今回の川上ワールド、ちょっと飛び過ぎで疲れた。
70点

椰子・椰子

川上弘美(新潮社)

 「わたし」が綴る、夢の世界。
 他人の夢の話ほどつまらないものはないが、この本はどうだろう。
 読んでいて飽きないどころか、もっともっと読みたい気持ちにさせられる。
 たとえばこんなくだり。
 「夕方になると、水平線がゆがみはじめた。……(略)断続的にゆがむことを繰りかえし、日没の直前に、一瞬消えた。」
 その景色、見てみたいものである。
 山口マオ氏のイラストも文章の雰囲気に合っていてまた良い。
85点

パレード

川上弘美(平凡社)

 川上氏の作品「センセイの鞄」に登場するツキコとセンセイ。
 二人のとある一日……そうめんを食べて、昼寝をし、ツキコさんは幼い日の思い出を語り始める。

 なんていとおしい一冊なのだろう。この個性的な装丁。短いけれど、ひと言ひと言がうっすらと光っているような言葉たち。
 大好きな作品の、こんなエピソードを読むことができ、筆者にお礼が言いたくなるような一冊であった。
95点

センセイの鞄

川上弘美(平凡社)

 37歳の「私」は、高校時代の国語教師と再会する。あわあわと親密さを増してゆくふたり。

 これは素晴らしい。手放しで褒めちぎりたい。派手さのないストーリーのなかに見え隠れする、独特のユーモア、卓越した性格描写。
 たとえばこんなくだり。「小学生のころ、わたしはずいぶんと大人だった。しかし中学、高校、と時間が進むにつれて、はんたいに大人でなくなっていった。……(略)時間と仲良くできない質なのかもしれない。」
 平易な文章に才気があふれ出る。
 ふたりが紡ぎだすたゆたうような、しかし濃密な愛。静かで優しい愛。しんしんと心に染み渡った。
100点

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