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海峡の光

辻仁成(新潮社)

 刑務所の看守をする男。彼のもとに、昔手酷くいじめられた同級生が入所してくる。
 まず感じたのは、文章の緻密さ。トランプで作るタワーのように、一枚たりとも無駄な「カード」がない。

 主人公の一人称の文章なので、謎が多い。彼以外の登場人物の心中は想像するしかない。だが、その「不可解さ」こそが、この作品の主題なのかもしれないと思った。他人の心にある闇は、到底覗き見ることはできないのである。
80点
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まどろむ夜のUFO

角田光代(幻冬舎)

 一人暮しの「私」の部屋に、夏休み中の弟がやってくる。弟は東京にいる彼女に会いに来たと言うが、どうも様子がおかしい。

 タイトルはいけ好かない感じがしたが、内容は気に入った。若い作者だが、会話や比喩に浮ついた感じがなくて好感度大。「……ぽてぽてとジュース売り場まで歩いていく」なんて表現も私好み。
 登場人物はみんな少しづつ変で、唯一マトモなのかと思った「私」も、いきなり「……私は恭一と寝た」。そこだけが生々しくて、全然ストーリーにそぐわない感じがした。
75点

パスタマシーンの幽霊

川上弘美(マガジンハウス)

 短編集。やはりこれを紹介せずにはいられない、『きんたま』。
 かなのひいおじいちゃんの使っていた火鉢。ひいおじいちゃんは、それを「きんたま火鉢」と呼んでいた。後年、ひいおじいちゃんが実は偉い学者だったと聞き、かなは心底驚く……。
 軽妙なひいおじいちゃんのエピソード、現在のかなの冴えない境遇、弁護士である姉に起きた悲しい事件……短編でありながら多彩なストーリー展開、でも欲張った感がなくてとても読みやすかった。

 その他の短編では、同じ話を違う登場人物の視点で描く、というのがいくつかあって、その手法も面白かった。人って、こうやって他人に誤解されながら弁解することも出来ず生きていくしかないんだなぁとしみじみ思ってしまった。
90点

女子の生きざま

リリー・フランキー(新潮社)

 女子が幸せな人生を迎えるために、リリー先生が教え諭してくれる、ありがたいエッセイ。か?
 テレビで見るリリー氏の面白さを求めてこの本を読んだのだが、残念ながら期待は裏切られた。まるで別人のようにつまらない。
 ぼそりとつぶやく、切れ味のあるコメントが私は大好きなのだが、こうして本になってしまうと、ただの文句言いに思えてくる。
 ただ、笑える部分ももちろんあるので、それを探すようなつもりで読むと良いかもしれない。
30点

これでよろしくて?

川上弘美(中央公論新社)

 38歳の主婦、菜月は街中で昔付き合っていた彼氏の母親と、偶然再会する。彼女は「これでよろしくて? 同好会」に菜月を誘う。その会とは、日常のちょっと引っ掛かることについて、女性四、五人で忌憚なく意見交換をする、というものだった……。

 不思議な作品だった。本当に川上氏が書いたのだろうか? 俗っぽいというか、レベルが低いというか、種々納得できなかった。
 女性同士の飾らない会話、嫁姑問題、とくると誰が書いても薄っぺらい話になってしまうということか。
 まぁそれでもきらりと光る部分は、いくつかあったのだが。例を挙げるなら会員の一人がのたまった、
 「男の子はばかでかわいい。成績がどうの、という話ではなくて、ともかく息子っていうものはばかなのよ」という主旨のセリフ。
 私に息子はいないが、なんだか分かる気がした。計算していない素のかわいさが、男の子にはありそうだ。
60点

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