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よしなしごとども 書きつくるなり
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よしもとばなな(新潮社)

 よしもと氏の公式サイトで書かれていた日記をまとめたのが本書。
 人気作家の日常は、かなり面白く読むことができた。ショッピングで燃えたり、おいしいお店を見つけて喜んだり。けっこう普通? と思ったり、でもお金の掛け具合は、やはり普通じゃないなと思ったりした。

 ただひとつ、次の話はかなり疑問に思った。
 奈良県のとある銭湯に行ったときのこと。彼女は小さな入れ墨があるそうなのだが、その銭湯では「入れ墨お断り」だった。それまでどこへ行ってもバンドエイドで隠せば入れてもらえた。だがそこでは断固として入れてもらえなかった。
 彼女はひとり別室で、同行した人たちを待つはめになった。
 という話なのだが。よしもと氏はその銭湯を実名で(許可はとったらしい)、かなりの勢いで非難しているのだ。
 しかも複数の人にこの話をし、同意をもらって喜んでいる。

 私はこれでよしもと氏がすっかり嫌いになった。入れ墨を入れた時点で、銭湯には入れないことを自覚すべきであろう。
 また客なのだから、ある程度のルール違反は目をつぶれという論理。加えて従業員に向かってどなり、論破したことを得意げに書いている点。どれもこれも傲慢としか言いようがない。
 あくまで屈しなかった銭湯側を、私は賞賛したい気持ちである。
20点
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川上弘美(日本経済新聞社)

 いろいろな場所についてのエッセイ。
 一番興味を引かれたのが、公園デビューの話。と言ってもたまたま預かった親類の赤ちゃんを連れて公園へ行ったときの話である。
 ひとりで公園に行ったときには、話したこともなかった子連れママたち。でも赤ちゃん連れなら、あっという間にディープな話題まで提供してくれたという。
 川上氏は、そんなママたちを蔑むでもなく、ただただ不思議な光景として描いている。

 それから、自分の独創性のなさもあっさりと認めている。とっても普通で標準的。作家たるもの「他人とは違う自分」を演出しそうなものなのに……その潔さに驚かされた。
90点
よしもとばなな(新潮社)

 「王国 その1」の続編。
 都会でひとり暮らす雫石は、退屈で淋しくて、次第に気持ちがぼんやりしていく。お気に入りの商店街を発見したりして、少し元気を取り戻したり。そうかと思えば、TVにはまって罪悪感を持ってみたり。不安定な日々を送るのだった……。

 「その1」を読んだときに感じた透明感は「その2」では鳴りをひそめてしまった。代わりに説教くささが表面化してしまったようだ。
 精神的に苦しんでいる人が出すエネルギーは、実際に空気を汚す、などという表現は優しさがないように思えた。
 もちろん、良い部分もたくさんあった。楓が占いをする理由について、雫石が答えを見つけるシーンは悲しくもあたたかい。
70点
よしもとばなな(文藝春秋社)

 短編集。
 五つの作品のなかで、私は「幽霊の家」が気に入った。
 ロールケーキの店を継ぐことになっている岩倉くんと、洋食屋を継ぐことになっているせっちゃん。
 同じ大学に通う二人は、ごく自然に惹かれあった。岩倉くんの住む安アパートには、老夫婦の幽霊が出るのだが、岩倉くんもせっちゃんも、幽霊がちっともこわくなかった。かえってその話題で和むほどだった……。

 海外へ修行に行っていた岩倉くんが帰国して、せっちゃんと再会するシーンが圧巻だった。時間が無限に広がってゆくイメージ、暖かい光に包まれるイメージが、美しく描写されている。少し宗教的なにおいがして、嫌悪感を抱きそうにもなるが、よしもと氏はその一歩手前でうまくかわしてくれている。

 その他、よしもと氏が自分の作品の中で、いちばん好きだと書いている「デッドエンドの思い出」は、ラスト三行がとても印象深かった。
90点
よしもとばなな(新潮社)

 山小屋でおばあちゃんと暮らしていた女の子「雫石」。おばあちゃんが海外で暮らすことになり、彼女はひとり都会へと出、占い師の「楓」と出会う。

 出だしは退屈だったが、次第に惹き込まれ、読了したときには満足感に包まれていた。
 小さな物語の積み重ねかたが素晴らしかった。居酒屋の「かけねなしに」優しい夫婦。占ってもらったお礼にと、チョコレートを差し出す少年。奥さんの明るさに疲れて別居している真一郎という男性。
 無駄がなくて、澄んでいて、心にすっと入ってくる表現がたくさんあって、ここにひとつひとつ引用したいくらいである。
 久々によしもと氏の世界を堪能した。
90点
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