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よしなしごとども 書きつくるなり
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天童荒太(文藝春秋社)

 筆者が『悼む人』を執筆するにあたり、主人公・静人の心情に近付こうと三年間にわたって書いた、「静人」の日記。
 読もうか読むまいか散々迷って、結局読んだ。寝る前に、毎日毎日いろんな人の死に様を読んだ。新聞や人づてに知る死、その多くは非業の死である。読んでいて気分が良いわけがない。
 でも何らかの結論というか、意味付けというか、そういうものが最後には用意されているのかと思い、読み続けた。
 以下ネタバレ(?)あり

  が、決定打は何も書かれていなかった。それどころか、終盤で登場するある女性が、静人に数々の疑問や助言を投げ掛けるのだが、彼は、まず「反論ありき」といった態度で、彼女の(あるいは読者の、と言い換えても良いかもしれない)言葉には耳を貸さなかった。
  そこまで読んで、ようやく私も気付いた、彼は傲慢だと。神の使いにでもなったつもりかと彼に詰め寄りたい心境になった。

  唯一無二の命は、静人のそれだって同じはずなのに、彼は自分の命、人生は軽んじている。そこに大きな矛盾を感じた。

70点
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天童荒太(文藝春秋社)

 日本中を旅する静人、その目的は死者を悼むことだった。彼の噂を聞いて近付く雑誌記者・蒔野。彼と偶然出会って、彼と行動を共にする女・倖世。それぞれの思いが交錯していく中、ガンに侵された静人の母・巡子のタイムリミットも刻々と迫る……。

 登場人物が誰も疎かにされることなく丁寧に描かれているところに、まず好感を覚えた。それは取りも直さず、静人の悼む姿勢にも通じるものがある。
 事故、自殺、他殺、どんな死に方をした人であっても、静人は自らの心に、彼らが確かに生きたということを刻もうとする。しかも、きっと誰かには愛された、きっと誰かには感謝された、そういうプラス面だけを見ようとするのだ。

 物語を読みながら、私も蒔野や倖世のように、静人の行動を訝しんだり、偽善の感情を探し出そうとしたりした。しかし読み進むうちに彼の、「亡くなった人を、他の人とは代えられない唯一の存在として覚えておきたい」という厳粛な想いに偽りは無いのだと判った。
 誰かもその詩の中で書いたではないか、「死んだ女よりもっと哀れなのは忘れられた女です」と。彼の悼みは、死者が最も欲しているものなのかもしれない。
 どんなに冷酷無比な人間でも、一度は蜘蛛を助けたかもしれない……悼むことに値しない人間などいない……そんなことも、ふと思った。
95点
天童荒太(筑摩書房)

 高校生の笑美子は、数人の友人といっしょに「包帯クラブ」の活動を始める。
 誰かが傷付いた場所に行き、包帯を巻く。その「手当て」によって、傷は傷として認められ、目には見えない出血が止まるような気がした……。

 このアイディアはすごい、と読んでる最中、単純に思った。
 誰しもいろいろな傷を受けながら生きている。が、声高に「傷付きました」と言うことにはためらいがある。「そんなことで」と他人には思われそうだから。
 その微妙な部分を認めることで、心が少し慰められるというのは、至極わかりやすい。

 それから、笑美子たちが使う各地の方言がいい。仲間うちの暗号のような使われ方をしているのだが、イマドキの高校生の話し言葉でこの物語が進んだら、きっと興醒めしただろう。
 所々に挟まれる現状報告も良かった。彼女たちの「その後」もまた興味深く読むことができた。
80点
天童荒太(新潮社)

 コンビニでバイトをしながら音楽に情熱を燃やす潤平。そのコンビニに連続強盗犯が押し入り、女性刑事風希が捜査に当たる。
 事件があったときに店内にいた、不審な男性客が共犯者として捜査線上に浮かぶが、実はその男は連続殺人犯であった……。

 筋も登場人物のキャラクターも分かりやすく、とても読みやすかった。
 ただ、このての小説があまりにも多いせいか、結末は予想通りで目新しさはなかった。
 「孤独」について風希が語るシーンがあるが、それも当たり前すぎて少し失望した。
70点
岸本佐知子(白水社)

 エッセイ集。
 こんなに面白いエッセイの書き手を今まで知らなかったなんて! と悔しさがこみ上げるくらい面白かった。
 中盤にあるただの妄想を書いた部分だけはイマイチだったが、それ以外はとても楽しく読むことができた。ロールシャッハ・テストの絵がどれも骨盤に見える、という一文には本気で噴いた。

 そして白水Uブックス版の巻末だけにあるボーナストラックの「あるようなないような、やっぱりあるような」。川上弘美氏と面識はないけどあるような気がする、という文に共感を覚えた。私も川上氏と酒を飲んだことがある、ような気がしてきた。
85点
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