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オーデュボンの祈り

伊坂幸太郎(新潮社)

 強盗をし損ねた伊藤は、気付くと見知らぬ島に連れてこられていた。そこは牡鹿半島の南に位置する島だったが、長らく外界とは隔絶された場所だった。
 住人は奇妙な人ばかり……反対のことしか言わない画家、太りすぎで動けない女性、しゃべるカカシ。そのカカシがばらばらの姿で発見され、島の秩序は乱れはじめる。
 
カカシがしゃべるはずがない、というもっともな考えを、伊藤も抱く。他にも、次々に登場しては好き勝手に振舞う島の住人を、いったんは疑問の目で見る。その彼の行動が「本当らしさ」を醸し出している。
 しかしながら、ストーリーに盛り上がりが乏しく、オチも弱い気がして、全体的に印象の薄い作品だった。

 ここからは個人的な意見だが、「リョコウバト」の話は稲見一良氏の「ダック・コール」の中に、「支倉常長」の話は遠藤周作氏の「侍」の中にあり、そのような作品どうしの繋がりが興味深かった。
65点
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リアルファンタジア 2012年以降の世界

山川健一(アメーバブックス)

 ヘミシンクという音響技術によって、筆者は非日常的な意識へと導かれる。そこで筆者がみたのは、死後の世界か? ただの幻想か?
 70年代に特許を取得したというヘミシンクという技術。それは左右の耳から異なった周波数の音を聞かせると、二つの周波数を調和させようとして、脳が第三の幻の音を作り出すことを利用した技術である。
 ヘミシンクによって、人は死後の世界をみたり、過去や未来に行けたり、自分のガイド(守護霊のようなもの)に会えたりするらしい。
 しかし、だ。筆者が体外離脱してみた景色は、現実のそれとは違っていたという。……ちょっとアヤシイ。
 また、ヘミシンクのCDは、アクアヴィジョ○・○カデミーという会社が販売しているらしいが、とてもたくさんの種類があり、高価だ。……やはりアヤシイ。

 幼い頃は「ノストラダムスの大予言」でかなりの恐怖を味わい、今また「マヤ暦が2012年で終わっている」という新たな地球滅亡説を聞き、正直うんざりしている。しかしこの本によれば、死=無ではないらしいので、2012年に何が起ころうとも恐るるに足らず。そこだけ覚えておこうと思った。
45点

4U

山田詠美(幻冬舎)

 片手が無い女の子の話「天国の右の手」。
 さすが山田詠美。主人公は障害者だが、障害者の心の中をこんなふうに書いた小説を読んだことがない。全然お涙頂戴ではない、それどころか彼女が羨ましくさえ思えてくる。両手があったって、それで一体何を掴んでるっていうの? 私は片手だけど、こんなに素敵なものを掴んでるんだよって言われているみたい。
 それから「血止め草式」。人一倍「イイ女」でいたいのに、隣に住む男と不倫するに及んで次第にB級女に成り下がっていく主人公。彼女のジレンマが過不足なく伝わってくる。
75点

グラスホッパー

伊坂幸太郎(角川書店)

 怪しげな会社に所属する「鈴木」は、ゆきがかり上、押し屋を追うはめになる。路上で人を押して車に轢かせる押し屋。そう目されたのは「槿(あさがお)」という謎の男。
 平行して進むのは、人を自殺させるのが仕事の「鯨」と殺し屋「蝉」の話。

 鯨と蝉の描写に惹きつけられた。対峙する相手の生気を奪う、まるで死神のような鯨。悪の化身のような蝉。二人の差しの勝負には息を呑む迫力があった。
 対する鈴木の凡庸さは、ストーリーの小休止、ノーマルな人間のサンプル、といったところだろうか。彼については妻との思い出話が少々うっとうしかった。
 男性の登場人物と比べると、女性たちは類型的に過ぎるような気がした。特に槿の妻・すみれは男性小説家の描く(夢見る?)可愛い妻そのものだった。
85点

戦中派不戦日記

山田風太郎(講談社)

 終戦の年、昭和20年。その一年間に筆者が認めた日記。
 とにかく長くて参ったが、筆者は削除も訂正もせずに、敢えて全文収録という形を取ったらしい。取捨そのものが一種の虚偽となるおそれがあるからだそうだ。
 なるほど、何日も続く空襲も大火も、当時生きた人はそれが真実だったのだから、読むほうが「飽いた」などと言うのは不遜というものであろう。

 全編を通して感じたことは、日本人は(あるいは人間は)しぶとい、ということである。
 今日死ぬか明日死ぬかの極限状態にありながら「何でも、運ですなあ」と言い合って、さびしく微笑する男たち。
 筆者である山田青年もまた、絶え間なく読書し、思索し、時には芝居を観たりもする。
 米国の余裕とは比ぶべくもないのであろうが、どことなくのんびりとした空気が漂うあたりが、開き直った強さを感じさせ、現在の日本の繁栄を予感させもするのである。
60点

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