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戦中派不戦日記

山田風太郎(講談社)

 終戦の年、昭和20年。その一年間に筆者が認めた日記。
 とにかく長くて参ったが、筆者は削除も訂正もせずに、敢えて全文収録という形を取ったらしい。取捨そのものが一種の虚偽となるおそれがあるからだそうだ。
 なるほど、何日も続く空襲も大火も、当時生きた人はそれが真実だったのだから、読むほうが「飽いた」などと言うのは不遜というものであろう。

 全編を通して感じたことは、日本人は(あるいは人間は)しぶとい、ということである。
 今日死ぬか明日死ぬかの極限状態にありながら「何でも、運ですなあ」と言い合って、さびしく微笑する男たち。
 筆者である山田青年もまた、絶え間なく読書し、思索し、時には芝居を観たりもする。
 米国の余裕とは比ぶべくもないのであろうが、どことなくのんびりとした空気が漂うあたりが、開き直った強さを感じさせ、現在の日本の繁栄を予感させもするのである。
60点
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死神の精度

伊坂幸太郎(角川書店)

 死ぬ予定の人間を七日間調査して「可」「見送り」のいずれかの判定を下す死神、千葉。彼が調査した六人についての連作短編集。

 『旅路を死神』が良かった。
 殺人犯である森岡は、千葉の車に乗り込んできて、北へ向かうことを指示する。森岡が告げた行き先は十和田湖。道中、千葉は森岡の胸中を探るが……。
 どこまでも淡々としている千葉、幼稚で浅はかな森岡、そのやり取りが絶妙である。
 次第に明らかになる森岡の過去も、ミステリーの味付けがなされていて、かなり引き込まれた。
 一歩間違えばキワモノになってしまいそうな「死神」というモチーフを、筆者はやすやすとこんなに心躍る、しゃれた小説に仕立て上げてしまった。その手腕に感服した。
95点

男性週期律<セックス&ナンセンス編>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第7巻。ちょっとエロティックな十七の作品が収められている。
 「美女貸し屋」を紹介しよう。
 探偵作家である「私」は、高利貸から借金をしていた。その返済がままならず、ついに「私」は彼の奇妙な申し出を受けることにする。それというのは、高利貸の情婦の面倒を見る、というものだった。
 尻すぼみになってる作品が多いこの本の中にあって、この短編はユーモアあり、ミステリーの味付けありで面白かった。
 特に子供を誘拐して身代金を取る方法は、他では聞いたことがない、斬新な方法だった。
60点

重力ピエロ

伊坂幸太郎(角川書店)

 泉水と春は兄弟で、弟の春は母親が強姦されたときに身ごもった子であった。二人が大人になったとき、ある事件が起きる。壁などにスプレーで落書きする、悪質ないたずら。それに引き続いて起きる連続放火。兄の泉水は事件の謎を解こうとするが……。

 登場人物がみんな変わっていて、それがとても心地良い。
 春は突拍子がなくて、その実すべて計算していて巧妙で。ガンで入院中の父は、子供みたいに無邪気かと思えば、圧倒的な存在感で兄弟を戒めたりもする。
 ひとり、泉水だけが常識的な雰囲気を持っているが、彼もまた前述の二人にかかると、軽々と常識を飛び越えた行動に出たりする。
 変わっていることを理解し、信頼しあう三人のゆるぎない関係が、ひどく羨ましかった。

 途中、こんな挿話がある。とある寺の看板に「まさか、楽するために生まれてきたんじゃあるまいな」と書かれていた、と。
 いくつもの悲しみを乗り越えてきた春は、この一文を心から肯定する。彼の悲痛な想いが爆発する終盤で、私はこの部分を思い出し、今後彼の人生が少しは楽になることを祈った。
95点

戦艦陸奥<戦争篇>

山田風太郎(光文社)

 山田風太郎のミステリー傑作選の第五巻。戦争をテーマにした、十一の作品が収められている。
 一番の長編「太陽黒点」を紹介しよう。
 アルバイトをしながら大学に通う明。同じアパートに住む容子とは恋人同士だった。彼らは慎ましく、穏やかな関係を育んでいた。だが大企業の社長令嬢である恵美子という女性が現れ、ふたりは次第に彼女に翻弄されてゆく。
 いくら努力しても、生まれながらにして別世界に住む恵美子に敵わないという明の絶望に、深く考えさせられた。そういうふうに不平等なのは世の常である。安易に恵美子に取り入ろうとする彼に、容子ともども私も悲しくなってしまった。
 そして、事件の鍵を握る人物による、ラストの独白。殺人の動機を知るに及んで、その無意味さ、理不尽さには息をのんだ。
75点

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