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よしなしごとども 書きつくるなり
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瀬川ことび(角川書店)

 ホラー短編集。いずれの作品も軽くて面白い。肩の力が抜けて行くホラーである。
 「初心者のための能楽鑑賞」が特に気に入った。好きな子に「能」に誘われ、仕方なく付き合う男。何度か公演を観るたびに、彼の周囲で不可思議なことが起こる。
 能に関するうんちくも興味深いし、最後のオチも深刻ぶらないところが良い。
75点
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東山彰良(宝島社)

 近未来の刑務所では、囚人たちの首にマイクロ・チップが埋め込まれていた。逃亡を図ると、それが作動して眼圧が急上昇し失明する仕組みになっていた。
 あるとき刑務所にテロリストが乱入し、所内は大混乱に陥る。それに乗じて脱走を企てた囚人たちの運命は。

 設定は面白いが、設定だけが面白い、とも言えそうだ。主人公が危機に陥ったり脱したりと、胸のすく展開はあるが、状況の描写がかなり分かりづらい。誰のセリフなのか、誰の行為なのか、わざとはぐらかすような書き方で、次第に嫌気が差した。
 主人公も都合のいいときだけ熱くなるイヤな奴だが、これは男性が読んだら違う意見を持たれそうではある。
65点
朝倉卓弥(宝島社)

 如月は才能あるピアニストだったが、強盗事件に巻き込まれて、一本の指を失う。事件のときに彼が助けた少女・千織は障害のある身ながらも、ピアノに天才的な才能を示す。
 二人は各地を巡って、千織のピアノ演奏を披露していたが、とある診療所で突発的な事故に遭遇し……。
 あまり現実的でない設定なのだが、それを忘れさせるほど、ストーリーに勢いがある。面白い。

 如月の一人称で物語りは進むのだが、彼の印象は薄い。その代わり、診療所の職員である真理子の存在感が大きい。
 雄弁な彼女は、何かの隙間を埋めるかのように語り続ける。その独白には涙を誘われたが、同時にうるささも感じてしまった。
75点
明野照葉(文藝春秋社)

 東京・大久保。時枝は怪しい商売に手を染めつつも、女手ひとつで香苗を育て上げた。やがて香苗は結婚して茨城へと移り住んだ。茨城・O町。香苗は姑とそりが合わず、ついには娘の真穂を連れて時枝の元に転がり込む。だが時枝は実の孫である真穂に、なぜか冷たい態度を取る。不審に思った香苗は、時枝のふるさと、新潟を訪ね、時枝の過去を探ろうとするが……。
 怪談「累ヶ淵」になぞらえた、女三代(四代?)の因縁が絡まってゆくさまがおどろおどろしい。特に、年端もゆかぬ真穂に老女の霊が乗り移って「キョキョキョキョ」と笑うシーンなど、背筋が寒くなった。
 映像化したら面白そうな作品だが、主人公である香苗が魅力に乏しい人間であるところがネックか。
85点
勢古浩爾(洋泉社)

 帯には「抱腹絶倒の『当世バカ』図巻!」とある。
 有名バカと無名ばか。全身バカと部分バカ。バカ女にバカ男。もうとにかくバカづくしの本である。

 紹介したい部分がたくさんあるのだが、その中でも選りすぐりをひとつ。「がんばれ」と言われたくない人。
 めいっぱい頑張ってるのに「頑張れ」と言われるとむかつく、何をどう頑張れば良いのでしょう?……筆者の答えは「だったらがんばらなくていいよ」。
 非常に明快で胸がすく答えではあるまいか。
 私も以前からこういう意見には、悲劇のヒロイン気分とでもいうような胡散臭さを感じていたのだ。
 日本語はそのへんの語彙が乏しいのだし、がんばれ、でいいじゃないか、という筆者には大賛成である。
85点
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