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小説 日本婦道記

山本周五郎(新潮社)

 短編集。うまい。どれもこれも示唆に富んだ、すばらしい作品ばかりである。金言に満ち溢れている。
 歴史の中に埋もれてしまった女性達。名を遺すこともなかった彼女達に光をあてて、賞賛に値する生き方を描きだしている。
 つつましく清廉な彼女達は、時代を変える、底知れぬ強さを併せ持っていたのである。

 ところで「桃の井戸」という作品のなかで次のような言葉が出てくる。
 「あなたはものごとを力んで考え過ぎますよ、もっと気持ちを楽に……」。自分に言われたのかと思った。
85点
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砂漠

伊坂幸太郎(新潮社)

 大学生である五人の男女を中心に織り成される、友情、恋愛、事件、そして事故……。

 大学生が主人公という設定でまず身構えた。目を背けたくなるような青臭い行動、現実味のないクサいセリフを読まされそう……が、五人は程よく大人で安堵した。
 唯一「西嶋」だけは幼稚なところもあったが、憎めない性格というか得難い存在で、彼抜きにはこの小説の面白さは語れないであろう。
 世界平和を願って麻雀で「平和(ピンフというらしい)」という役ばかり狙ってみたり。「今そこにある危機」を救うため、動物保護センターから犬をもらってみたり。
 行動は突飛だが、彼なりの筋道は通っている。面倒くさいけど正しい存在……西嶋、これからも頑張れ、と言いたくなった。
 他の四人も、美しすぎる東堂、念力使いの南、中庸な役どころの北村、お調子者の鳥井、と多彩で、数々のエピソードは具体性を帯び、映像となって目の前に現れるようだった。
90点

日常茶飯事

山本夏彦(新潮社)

 雑誌「室内」に連載されていたコラムを集めた短文集。
 本作品が単行本として出たのは昭和37年。だが、今読んでも古臭さは感じない。
 たとえば、昨今婦女子は出れる、出れないと、ら抜き言葉を使うと嘆じる一節がある。
 たとえば、寿司屋で。客を馬鹿にする寿司職人とへつらう客の、主客転倒を観察する一節がある。
 それは今現在も人々の口にのぼる話題であろう。
 また、思わず苦笑してしまう話もあった。「すべて婦人は、自分を美人の一種だと思っている。すくなくともその一種だと思っている」などという文章は、まさに言いえて妙である。
65点

魔王

伊坂幸太郎(講談社)

 ごく普通のサラリーマン・安藤は、あるとき自分の特殊な能力に気付く。自分が思った言葉を他人にしゃべらせることが出来る、腹話術のような能力。彼はそれであることに挑戦しようとするが……。

 のっけから選挙や政治の話が出てきて、これはつまらない本かも……と思ったらとんでもなかった。面白過ぎて、読了してすぐ続編ともいうべき『モダンタイムス』をポチったほどだ。
 まず危惧した政治の話が、ことのほか良かった。カリスマ性を持った政治家の術中に、まんまとはまっていく民衆。何かがおかしいと、流れに抗おうとする安藤。彼の弟もまた深く静かに行動し始める。
 この作品が書かれたのは、あの小泉首相が誕生した日よりも前らしい。当時の日本は小泉劇場に魅了されていた。まさにこの作品にそっくりだった。その危険性を改めて感じさせられた。
95点

シュガーレス・ラヴ

山本文緒(集英社)

 もっとベタベタした、クサい話を想像していたのだが、そうでもなかった。乾いた文体で、余計な描写がなくて、その点では良かった。
 でも内容は……ここに出てくる女達、私は嫌いです。淋しいからって、すぐ男を誘うな、と言いたい。自分は辛い、自分は可哀想、自分は自分は。聞きたくない。
 ちょっと光が見えたらしいラストが多いが、勝手にしろと言いたくなった。作者の文章自体は嫌いではないので、もっと違うタイプの話が読みたい、そういうのがあれば、の話だが。
45点

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