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リプリー

パトリシア・ハイスミス(角川書店)

 映画「太陽がいっぱい」の原作。私も観ました、昔。主演はアラン・ドロンでした。

 でも映画の中のアラン・ドロン、この本の主人公みたいな性格だったか……読んでいて苛々するほど女々しい男。「……と言いかけたがやめた」とか「彼はうらめしそうにボブをじっとみつめた」とか、絵に描いたような卑屈人間。
 ストーリーは簡単に言うと、主人公のリプリーが大金持ちのディッキーを殺して、彼になりすますという話。
 殺人が起きるまでは退屈だった。が、事件後はリプリーが持ち前の小心者根性を剥き出しにして、それが皮肉にも楽しめた。
70点
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リンさんの小さな子

フィリップ・クローデル(みすず書房)

 戦争によってすべてを焼き尽くされ、故郷を追われたリンさん。難民となった彼は、孫娘である赤ちゃんと一緒にとある港町へと連れて来られた。
 その街で、彼はバルクという気の良い男と出会う。二人の間には次第に友情のようなものが芽生えるのだった。

 私の拙い言葉では、この本の素晴らしさを表現できない、と思わせるほど良い本だった。
 悲しみに打ちひしがれ強ばったリンさんの心が、バルクさんの優しさでほどけてゆく。言葉も通じない二人だが、温かくゆっくりと心を通わせあう。その過程が、読むほどに味わい深い。
 終盤の、突然の二人の別れ、そしてリンさんの受難がまた読ませる。お願いだから残酷なラストにしないでくれと、祈るような気持ちで一気に読んだ。そしてその祈りは……これ以上はネタバレなので自粛。

 リンさんの故郷では、死ぬ間際にいくべき泉があるという。その水を飲めば、辛い記憶、悲しい記憶は消され、楽しかった思い出だけが残るのだ。
 バルクさんが見たというそんな夢の話も、とても心に響いた。
95点

朗読者

ベルンハルト・シュリンク(新潮社)

 ハンナは無実の罪を着せられて刑務所行きになる。彼女がひた隠しにした事実は、自分が文盲であるということだった。

 彼女の羞恥心や価値観には驚かされた。すべてを失ってまで隠したい事実が文盲、現代の日本では彼女の心中を想像することさえ難しい。
 そして三十過ぎの彼女を支える十五歳のミヒャエル。何年も彼女のもとに通い、自分が本を朗読したテープを届ける。私は彼の行動には過度の偏執を感じてしまった。めくるめくような性を教えてくれた彼女に夢中になる過程は分かるが、その気持ちがずっと持続するというところが理解できなかった。
 でもショッキングな設定の割には、静かで地に足がついた読みやすい小説ではある。
80点

わが名はレッド

シェイマス・スミス(早川書房)

 孤児のレッドは、修道院(いわゆる孤児院)で育ち、やがて犯罪に手を染める。組織を操り、頭脳戦を勝ち残ってゆく彼。最終目的はいったい何なのか。

 レッドは、まず行動ありきで、その理由はなかなか明かされない。読んでるほうは疑問を抱きつつ、読み進めるしかない。でも謎が深ければ深いほど、それが解決されたときの快感は……言わずもがなであろう。
 また、レッドと対立する連続殺人犯「ピカソ」の存在も、ストーリーに起伏を与えている。

 ところで最終ページにあった一文は、事実であろうか。だとすると、この作品はとても悲しくて苦しい作品だと言えるかもしれない。
75点

わたしを離さないで

カズオ・イシグロ(早川書房)

 キャシー・Hは、ヘールシャムという奇妙な施設で育った。全寮制の学校のようなその施設には、将来「提供者」となる生徒と、教師のような「保護官」が生活していた。
 外部と隔絶された世界の中で、生徒たちは数々の疑問を抱きながらも平穏に暮らしていた。
 今や「介護人」となったキャシーは、その頃のことをあれこれと思い出すのだった……。

 ごく普通の学園生活を描いている部分が多い。ティーンエイジャーに特有の幼稚なケンカや悪ふざけ。嫉妬や恋。
 だが、すべての謎を解明した後のキャシーの回顧という設定のせいか、常に絶望や悲しみに彩られた何かが足元から忍び寄ってくるようで、読んでいてもどこか落ち着かない。

 もし将来、本当に提供者や介護人という制度が実現したら(してしまったら)、世界は混沌を極めた後に壊れそうな気がする。それくらいこの制度はタブーではないだろうか。
80点

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