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よしなしごとども 書きつくるなり
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川上弘美(新潮社)

 東京の、小さな商店街。そこをゆきかう人々を描いた連作短編小説集。
 それぞれの話が少しずつリンクしていて、ひとつの事件が違った視点で語られるのが興味を惹いた。
 特に、最後の『ゆるく巻くかたつむりの殻』は、幾つかの話の中で語られていた女性が、自らの思いを独白するという形になっており、まさに大団円、物語がぎゅっと収束する感じがとても心地よかった。

 ラストで彼女が死生観を語る部分は、圧巻だった。連綿と続く人と人とのつながり、記憶のつながりが、自分をずっと生かしてゆくのだという。
 死してなお漠々と自分の「かけら」が在り続ける……なんて空恐ろしい、しかし同時になんて甘美な考え方であろうか。
95点
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筑摩書房

 「高校生のための」とタイトルにはあるが、けっこう内容は難しい(私のレベルが低いということもある)。70おさめられている随筆、短文はさほど難解ではないが、別冊になっている「表現への扉」が難しいのだ。
 というわけで、本文を鑑賞するだけでも「あり」だと勝手に断定。

 野坂昭如・著「火垂るの墓」、K・チャペック「園芸家12カ月」など、以前読んで惹かれた作品はやはり抜粋でも面白く、初めて読んで、全部を読みたくなったものもいくつかあった。
 読書案内、興味を引き出すという意味でも、本書は良書といえるだろう。
70点
嶽本野ばら(小学館)

 実在するカフェーを舞台に「僕」と「君」が織り成す、短い物語の数々。
 青臭い小説、と切って捨てるのは簡単だが、そうさせない真摯さがこの作品集にはある。時流に乗ったり、客に媚びたりせずに、己のスタンスで存在し続けるカフェー。それは物語に登場する「僕」や「君」にとてもよく似ている。

 12の短編の中で、私が特に気に入ったのは「品性のある制服と、品性のある歯車」。その中の一節が、心に残った。
 『品性を打ち捨ててまで、手に入れなければならないものなぞ、この世に存在するものですか』。
 品性。今どき、捨て去ってしまった、否、最初から持ち合わせていない人のほうが多い気がする。
75点
平凡社

 太宰の短くも激しかった一生を、たっぷりの写真と作品からの抜粋でたどる。
 まず、太宰に宛てた三通の手紙にやられた。書き手は町田康、伊藤比呂美、室井滋。きっと太宰ファンは皆「我こそはファンの中のファン。その情熱は誰にも負けない」と思っているのかもしれない。
 そして太宰の自殺後の追悼文に、またやられた。田中英光、石川淳、坂口安吾……。皆彼の死を惜しみ、悲しみ、怒りさえ表している。彼の作品に、いや一言一句に魅入られた者にとって、その死はあまりに重かっただろう。

 芥川龍之介が自殺しなかったら、腹膜炎を患わなかったら(それから麻薬性鎮痛剤を常用)、女性にまったくモテなかったら……彼の人生を狂わせたすべてが、憎い。
90点
嶽本野ばら(小学館)

 高校生の「私」は、パンクバンドのボーカル「ミシン」に恋焦がれ、なんとか彼女と接触したいと痛切に願うようになる。
 などと粗筋を書くと、まるで陳腐な話に聞こえるが、決してそんなことはない。作品に漂う透明感や、むき出しでひりつくような「私」の想いは、まるで濃霧のように柔らかく、だが確実に私の心を濡らした。
 それから「私」が「MILK」というブランドにのめり込んでいく描写も、私には非常に共感できた。買っても買っても欲しい。中毒になってこそ、ブランドのパワーに勝てるのだと思う。
80点
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