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よしなしごとども 書きつくるなり
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今邑彩(東京創元社)

 薔薇の咲き乱れる、広大な屋敷に住む苑田。彼と偶然知り合った花梨は、やがて親しくなり、後妻として屋敷に住まうことになる。
 苑田は最初の妻、二番目の妻、ともに自殺で失っており、花梨も脅迫めいた手紙をもらうようになる。彼女に憎しみを抱く脅迫者は、一体誰なのか。

 初めて読んだ作家にもかかわらず、なぜか既読感があった。あまりひねりのない構成のせいだろうか。だが物語は丁寧に書かれていて、読みやすいことこの上ない。
 謎解きに頭を使うより、花梨の心象風景に思いを巡らせたほうが、この作品にとってベターだと思う。
70点
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井上夢人(講談社)

 「岡嶋二人」という作家は、その名の通り「イズミ」と「徳さん」の二人だった。彼らはひょんなことから「乱歩賞を取ろう」ということになって、小説を書き始める。
 ずぶの素人が、手探りで作品を書き上げ、四度目の挑戦で受賞する。このへんのプロセスはけっこう面白かった。推理小説の作法は、かなり参考になると思う。
 ところで、このエッセイは「イズミ」(井上夢人)が一人で書いたものだ。前半は読んでいて楽しかったが、後半は筆者の、いわゆる愚痴がちょっとうっとうしかった。作家だからって、ここまで書くか? と思ってしまった。
 しかしながら、ナントカ賞を受賞すると、みんな彼らのように締め切りに忙殺されるようになるのだろうか。機関銃のように小説が書けないと、編集者たちに潰されそうである。
70点
井上靖(新潮社)

 登山仲間の小坂と魚津。二人が穂高に登山したとき小坂のザイルが切れて、彼は死んでしまう。
 人妻を愛して苦しんでいた小坂。彼の死は事故か自殺か。

 私は登山というものに全く興味がない。そんな私でさえこの作品には心動かされた。
 山に闘いを挑むものたちの考え方、ひいては生き方に、素直に感動できた。
 ただ、そうは言っても終盤の展開には違和感が残った。こんな悲しい結末にしなくても良かったのではないだろうか。
80点
井上直久(講談社)

 いやぁ探した探した。ネット上の本屋に注文すること二回、でもいずれも在庫なし。そうなると余計読みたい! それで、ダメもとで地元の図書館に行ったら、あったんですね、これが。
 何とも不思議な絵本。夢の中で見たような、あるいは異次元のような世界。はたまた、いろんな問題が解決して、良いほうへ転がった未来、のような。
 私が好きなのは16ページの絵。こういう、ただキレイなだけじゃない絵は、私好み。
75点
井上荒野(文藝春秋社)

 両親が事故死し、姉の椿、妹の杏、その夫・迅人はペンション「だりや荘」を切り盛りすることになる。表面は穏やかな生活が始まるが、椿と迅人は道ならぬ恋に落ちてゆく……。

 こんなに読み手を苛つかせる小説も珍しいだろう。妹の夫とも見合い相手の男性とも関係を続ける椿。彼女は美しく危うげで「妖精のよう」と他人に評される。ただの精力絶倫なだけの女性が、妖精とは恐れ入った。
 相手の迅人も、人間として下の下だ。どちらの女性もちゃんと愛していると彼はのたまう。そこには罪悪感の欠片もない。
 加えて、バイトすることになった翼という青年も、ほどなくして杏と関係を結ぶ。揃いも揃って肉欲の権化ではないか。
 ラストも後味の悪いラストで、やっぱり途中で読むのをやめれば良かったと後悔しきりであった。
20点
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