アガサ・クリスチィ(東京創元社)
世にクリスティーの作品数々あれど、私が読んだ彼女の作品は何十冊もあれど、私のイチオシはこれに収められている「うぐいす荘」である。マイナーな目立たない短編ではあるが、クライマックスでの私の心臓バクバク度はこれが一番だった。
自分の夫が殺人鬼だと気付いてしまった妻、その瞬間外出先から戻ってきた夫はシャベルを手にしていた。妻を殺害した後に埋める穴を掘るためのシャベルを。絶体絶命の妻がとった行動とは。
追伸。この小説、他の出版社では「ナイチンゲール荘」という名前になっているようです。
100点
世にクリスティーの作品数々あれど、私が読んだ彼女の作品は何十冊もあれど、私のイチオシはこれに収められている「うぐいす荘」である。マイナーな目立たない短編ではあるが、クライマックスでの私の心臓バクバク度はこれが一番だった。
自分の夫が殺人鬼だと気付いてしまった妻、その瞬間外出先から戻ってきた夫はシャベルを手にしていた。妻を殺害した後に埋める穴を掘るためのシャベルを。絶体絶命の妻がとった行動とは。
追伸。この小説、他の出版社では「ナイチンゲール荘」という名前になっているようです。
100点
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パオロ・マウレンシグ(草思社)
「私」は、あるオークションで、名器と呼ばれるバイオリンを落札する。
ほどなくして、そのバイオリンの元の所有者に会ったことがあるという、小説家の男が訪ねてくる。男の話によると、その所有者というのは、天才的バイオリニストだったという……。
物語のメインは、天才的バイオリニスト・イエーネによる語りの部分である。
13歳で入学した音楽学校の、非人道的な厳しさ。ある女流バイオリニストに対する思慕の念。さらには音楽学校で出会った少年・クーノに対する感情。それらがキリキリと締め付けられるような緊迫感を伴って、綿密に描かれている。
なかでも、貴族としての確固たる後ろ盾があるクーノに対する羨望、あるいは嫉妬は、痛いほど伝わってきた。
ラストの種明かしは少し分かりづらく、読了したときに「あの人はどうなった?」という疑問も残ったが、ストーリー全体を流れる雰囲気がとても良い作品だった。
80点
「私」は、あるオークションで、名器と呼ばれるバイオリンを落札する。
ほどなくして、そのバイオリンの元の所有者に会ったことがあるという、小説家の男が訪ねてくる。男の話によると、その所有者というのは、天才的バイオリニストだったという……。
物語のメインは、天才的バイオリニスト・イエーネによる語りの部分である。
13歳で入学した音楽学校の、非人道的な厳しさ。ある女流バイオリニストに対する思慕の念。さらには音楽学校で出会った少年・クーノに対する感情。それらがキリキリと締め付けられるような緊迫感を伴って、綿密に描かれている。
なかでも、貴族としての確固たる後ろ盾があるクーノに対する羨望、あるいは嫉妬は、痛いほど伝わってきた。
ラストの種明かしは少し分かりづらく、読了したときに「あの人はどうなった?」という疑問も残ったが、ストーリー全体を流れる雰囲気がとても良い作品だった。
80点
トーマス・オーウェン(東京創元社)
短編集。サブタイトルどおり「十四の不気味な物語」が収められている。『亡霊への憐れみ』が良かった。
四人の男女が、面白半分に見知らぬ墓を暴いた。死体を目の当たりにした「わたし」は、恐ろしさに震える。そしてその晩、宿で眠る「わたし」の部屋のドアを、何者かがノックした……。
他の作品もそうなのだが、似たようなストーリーは、もう何度も読んだ気がする。だがスタンダードな、普遍的な恐怖というものがうまく描かれているので、充分楽しむことができた。
日常が、ふとした瞬間に異常さをはらむ。気付いたときには手遅れになっている。そんな気味の悪さが幻想的に描かれている十四編であった。
80点
短編集。サブタイトルどおり「十四の不気味な物語」が収められている。『亡霊への憐れみ』が良かった。
四人の男女が、面白半分に見知らぬ墓を暴いた。死体を目の当たりにした「わたし」は、恐ろしさに震える。そしてその晩、宿で眠る「わたし」の部屋のドアを、何者かがノックした……。
他の作品もそうなのだが、似たようなストーリーは、もう何度も読んだ気がする。だがスタンダードな、普遍的な恐怖というものがうまく描かれているので、充分楽しむことができた。
日常が、ふとした瞬間に異常さをはらむ。気付いたときには手遅れになっている。そんな気味の悪さが幻想的に描かれている十四編であった。
80点
アイザック・アシモフ(東京創元社)
月に一度、晩餐会を開いて他愛のない話をする会、それが「黒後家蜘蛛の会」であった。個性豊かな六人のメンバーたちは、かわるがわるホスト役となり、皆にいろいろな謎解きをさせた……。
1~5まであるこのシリーズ、「1」には12回分の会の様子が収められている。初回の『会心の笑い』を紹介したいと思う。
強欲なアンダースンと潔癖なジャクスンは仕事上のパートナーだった。が、やがてアンダースンはジャクスンを陥れるようにして会社を追い出した。
数日後、アンダースンは自宅から「何か」が無くなっているような気がし始めた。雑然とした自宅ゆえ「何か」の正体は分からないが、盗んだのはジャクスンに違いないと思うのだった。
トリックは所謂よくある手だが、登場人物たちのセリフが洒落ているといったらない。特に給仕のヘンリーは、毎回胸のすくようなセリフを最後に言う。天啓に打たれたように唖然とするメンバーの顔が思い浮かぶようであった。
75点
月に一度、晩餐会を開いて他愛のない話をする会、それが「黒後家蜘蛛の会」であった。個性豊かな六人のメンバーたちは、かわるがわるホスト役となり、皆にいろいろな謎解きをさせた……。
1~5まであるこのシリーズ、「1」には12回分の会の様子が収められている。初回の『会心の笑い』を紹介したいと思う。
強欲なアンダースンと潔癖なジャクスンは仕事上のパートナーだった。が、やがてアンダースンはジャクスンを陥れるようにして会社を追い出した。
数日後、アンダースンは自宅から「何か」が無くなっているような気がし始めた。雑然とした自宅ゆえ「何か」の正体は分からないが、盗んだのはジャクスンに違いないと思うのだった。
トリックは所謂よくある手だが、登場人物たちのセリフが洒落ているといったらない。特に給仕のヘンリーは、毎回胸のすくようなセリフを最後に言う。天啓に打たれたように唖然とするメンバーの顔が思い浮かぶようであった。
75点
小島信夫(新潮社)
エッセイ。かと思ったら、解説で「長編小説」と書かれていて驚いた。もう根底から私は間違っていたようだ。
作家である保坂和志氏と「トークイベント」をしたのは事実のようで、それについて書かれているのが第二章なのだが、
……は忘れた、
……はたまたま思いついたことで、そういうことではないかもしれない、
……この一つはいかにも疑わしい、
と、読者をけむに巻く言葉が随所にあって、結論はどれなのか、誰の言ったことなのか、常に判然としないまま、話はずるずると進んでみたり戻ってみたり。
奥様は認知症のようだが、筆者ももしや? とまで思ってしまった。
これは作者の遺作で、最高傑作と裏表紙にはあるが、それが本当だとするならもうどの作品も私には手におえないだろう。
170ページまで読んだ。(新潮文庫 初版)
エッセイ。かと思ったら、解説で「長編小説」と書かれていて驚いた。もう根底から私は間違っていたようだ。
作家である保坂和志氏と「トークイベント」をしたのは事実のようで、それについて書かれているのが第二章なのだが、
……は忘れた、
……はたまたま思いついたことで、そういうことではないかもしれない、
……この一つはいかにも疑わしい、
と、読者をけむに巻く言葉が随所にあって、結論はどれなのか、誰の言ったことなのか、常に判然としないまま、話はずるずると進んでみたり戻ってみたり。
奥様は認知症のようだが、筆者ももしや? とまで思ってしまった。
これは作者の遺作で、最高傑作と裏表紙にはあるが、それが本当だとするならもうどの作品も私には手におえないだろう。
170ページまで読んだ。(新潮文庫 初版)