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四日間の奇蹟

朝倉卓弥(宝島社)

 如月は才能あるピアニストだったが、強盗事件に巻き込まれて、一本の指を失う。事件のときに彼が助けた少女・千織は障害のある身ながらも、ピアノに天才的な才能を示す。
 二人は各地を巡って、千織のピアノ演奏を披露していたが、とある診療所で突発的な事故に遭遇し……。
 あまり現実的でない設定なのだが、それを忘れさせるほど、ストーリーに勢いがある。面白い。

 如月の一人称で物語りは進むのだが、彼の印象は薄い。その代わり、診療所の職員である真理子の存在感が大きい。
 雄弁な彼女は、何かの隙間を埋めるかのように語り続ける。その独白には涙を誘われたが、同時にうるささも感じてしまった。
75点
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輪廻

明野照葉(文藝春秋社)

 東京・大久保。時枝は怪しい商売に手を染めつつも、女手ひとつで香苗を育て上げた。やがて香苗は結婚して茨城へと移り住んだ。茨城・O町。香苗は姑とそりが合わず、ついには娘の真穂を連れて時枝の元に転がり込む。だが時枝は実の孫である真穂に、なぜか冷たい態度を取る。不審に思った香苗は、時枝のふるさと、新潟を訪ね、時枝の過去を探ろうとするが……。
 怪談「累ヶ淵」になぞらえた、女三代(四代?)の因縁が絡まってゆくさまがおどろおどろしい。特に、年端もゆかぬ真穂に老女の霊が乗り移って「キョキョキョキョ」と笑うシーンなど、背筋が寒くなった。
 映像化したら面白そうな作品だが、主人公である香苗が魅力に乏しい人間であるところがネックか。
85点

赤道

明野照葉(光文社)

 バンコクに住む修二のもとに、母親が亡くなったという報せが届く。日本へ戻った彼は、実家の登記証書を持ち出し、そのままバンコクへと帰ってきてしまう。
 発作的なその行動は、彼の半生を表すかのようだった。何人もの人間を死に至らしめた、狂気のなせる業……。
 作品の根底には、バンコクのまとわりつくような暑さが漂っている。繰り返されるその描写は、読んでいてつらかった。
 また、修二が、妻である綾にした仕打ちもひどいものだった。綾の苦悩を理解しながら、ごまかすようなことしか言わず、彼女を追いつめたのだ。その卑怯なやり口には、まったくいらいらさせられた。
65点

羅生門 蜘蛛の糸 杜子春 外十八篇

芥川龍之介(文藝春秋)

 十八の短編だが、いずれ劣らぬ名作ぞろいである。ユーモラスな「鼻」。芸術家の業を描いた「地獄変」。ミステリーのような「藪の中」。
 そんななかでも遺作となった「歯車」は秀逸である。有名な作品なのであらすじは省くが、あの世とこの世のきわを、行きつ戻りつしているような危さに満ち満ちている。何を見ても「死」に結び付けようとする、主人公の異様に研ぎ澄まされた神経に、読んでいるあいだ中緊張を強いられた。
 怖い話、おどろおどろしい話はたくさんあれど、この作品ほど負のエネルギーに吸い込まれそうになる作品は、そうはないだろう。
90点

スタジアム 虹の事件簿

青井夏海(東京創元社)

 連作短編集。
 万年最下位のプロ野球球団「東海レインボーズ」。球団のオーナーである多佳子が、いろいろな事件の謎解きをする。
 野球の試合内容と、事件の動機などが絡み合うという、斬新な手法が楽しめた。
 完全試合目前、たった一球の判定でがたがたに崩れていくピッチャー。
 完全犯罪を企む犯罪者も、小さなほころびから信じ難い失敗をしてしまう……そんな繋がりが無理なく描かれている。
 また、野球を知らない人でも知らないなりに楽しめる作品だと思う。
75点

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